デジタルビデオでショートフィルムを撮影する。
私はブロックプラン初期の3作品の撮影、照明を担当した。この撮影と照明を一人の人間が統括する撮影監督(DP)システムは、以前から自分のスタンスであり、このシステム自体について書きたいことは山ほどあるが、今回はデジタルビデオ(以下DV)を使ってショートフィルムを撮影(照明)してみて感じたことを技術的な視点からまとめてみたい。

>>>>『脚本療法』斎藤正勝監督
>>>>『三原有三』佐藤信介監督
>>>>『なくしもの』三宅隆太監督






『脚本療法』斎藤正勝監督

 ブロックプラン第1作目に当たるこの作品は、本誌110号に掲載された趣旨に添い、1日で撮り切ることが前提の室内短編劇として制作されている。登場人物は二人。只広い会議室で行われている脚本家募集の面 接が実は精神科医と患者のやりとりであり、その会話は終わったかのごとくみえるが永遠にループしているという設定。監督の要望は暗めの自然光でメインの舞台となる会議室を観せたいという事だった。撮影設計に関しては、こちらが脚本を読みいくつかイメージしたものを監督に提案し、その中からチョイスしてもらうという形をとった。監督の迷いのない的確な指示により、撮影は順調に進めることができた。 会話をじっくり聞かせるため作為的なキャメラワーク、手持ち撮影などは避けることにした。DVを使ったドラマで多く見られるのは、その機動性を活かしためまぐるしいカットの羅列だ。『ラブ&ポップ』(撮影 柴主高秀)はDVキャメラの機動性をフルに活かした撮影で様々な可能性にチャレンジしている。それはそれでいいが、一歩間違うと陳腐さばかりが目立つ結果 となる(実際そうした作品は数多い)。そこで私はこの作品でそれとは正反対のアプローチ、つまり機動性のあるDVキャメラをむしろ、まるで35ミリキャメラのように据え、じっくり芝居を撮ることにした。こうすることで、奇抜で気を逸らされがちな映像を廃し、DVの映像のトーンをじっくり観察することができた。果 たしてDVはその映像だけでどれほどのクオリティーを持ちうるか。ブロックプランをスタートさせDVでストーリー作品を撮っていこうとしている私たちにとってそれは重要なポイントだ。

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 結果は自然光撮影に関して素晴らしかった。ロケハン時には晴天だったため、ロケセットとなる会議室の 天井の蛍光灯を全てアウトした状態で、窓から入り込んでくる反射光をキーライト(ショットの中で人物を 照らすメインのライト)にして如何にカットしていくかという方向でプランを立てていたのだが、撮影当日 は雨。光量は約6分の1ほどしかなかったにも関わらず、窓から入る僅かな天空光だけで十分な雰囲気を作り 出すことができた。部屋の奥はかなり暗くなってしまうため、キャメラが窓向けにならない場合はカーテン の開け閉めと多少のライトを必要としたが、自前の蛍光灯40W1本と、650Wのフォーカシングで床からの フレアーを作ったぐらいですんだ。窓向けの逆光のショットに関しては表情が解るぐらいまで補ったのだ が、監督からはそれすらなくていいと言われたぐらいだった。作品を観るとたしかに監督の言う通 りだった と思う。撮影当日が晴天だった場合、完全なシルエットになるのを避けるため多少のライトは必要になり、 当初の予定どうり窓にネットを貼るか、NDフィルター(ニュートラル デンシティー フィルターの略。光 の色再現を変えることなく純粋に光量を落としていくフィルター。キャメラ用とライト用があるがここで述 べているのは後者のこと。値段は幾分高価である)を貼るかなどして、光量 をカットしていかねばならなか ったとも思う。また光量のカットは窓外の背景をいかに見せていくかという問題とも直結するが、この際外 は適度に飛ばしてゆくことにした。会議室を窓向けに狙ったワイドショットはカーテンの隙間から漏れる僅 かな光をキーライトとして、純粋にその光だけで撮影した。結果、人物は僅かなシルエットとなり部屋の雰 囲気も作品の内容にあった暗く沈んだ雰囲気が出せた。とはいえ、部屋が余りにもワントーンなため、精神 科医の座る机の上にポジチェック用の蛍光灯板を置き、あるニュアンスを作り出してみた。しかし、これが 効果的すぎて患者の方が印象が弱くなってしまったように思う。小道具として使えるような照明装置を患者 側の方にも設置しやればもう少し雰囲気が出せたのではないかと思う。日暮れぎりぎりまで撮影を続けるこ とができ、DVのすごさを改めて実感した。フィルム、ベータカム、従来のホームビデオではこうはいかず、 ごく小数のユニットで、半日でクオリティーを損なうことなくショートフィルムを撮り切るという目標は見事に果 た された。斎藤監督とは初めて組んだこともあり、イメージに納得してもらえるか不安だったが、何とか満足 してもらえたようだった。

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これだけ書くとDV万能のように思われがちだが、課題は一杯残された。実景では再現性が豊かなDVだ が、役者のスキントーンに幅が無く色味にも少し不満を感じた。デジタルの宿命か全体が硬質になる傾向が あり、ライティングの問題でもあるのだが、安易にディフュージョン(レンズ前にフィルター、ネット等を かけ、映像のシャープさを軟化させること)を使わずに如何に人物と背景のトーンをそろえることができる かがポイントになると思う(『脚本療法』、『三原有三』ではsonyのVX-1000を使用。3作目の『なくし もの』ではメインキャメラでCanonのXL-1を使用し、このキャメラのレンズの特性がこの問題をかなり解決 している。しかし、ステディカム用としてVX-1000を併用しているためマッチングの問題が出る結果 とな る。これについては『なくしもの』の章で詳しく述べる)。
 またこの作品はシャッターモードを30分の1にして若干のFトーン効果 を現場で作り出している(ビデオ キャメラにはシャッターの速度を変える機能が付いており、これはフィルムのムービーキャメラではシャッ ター開角度に相当する。ビデオは1秒間に30フレームで動画が作られているためノーマルシャッターは60分 の1秒ということになる。 シャッター速度を若干スローにすると僅かな間欠運動が目立つようになり、フィ ルムで撮影したような疑似効果を得ることができる)。このスローシャッターモードは映像のトーンにもか なり影響し、より強い黒を出すことができるがデジタルエッジ(DVではスローシャッターモードはデジタル 処理されるため、被写体のエッジがギザギザ状になってしまう。直線の物体はより顕著にあらわれる)がよ り目立つことにもなり、また蛍光灯のフリッカー(蛍光灯は特定の周波数で明滅をくり返しているためビデ オの場合、50・の場合シャッターを100分の1から75分の1に設定してこれが画面 上に表れないようにす る。よって30分の1のスローシャッターではは、フリッカーを消すことができない。他の解決策として撮影 用の照明装置としてのフリッカーレスの蛍光灯を使用するという手がある)などの問題も絡んでくるため、 撮影時に処理するかポストプロ段階で処理するかで、意見が分かれるところでもあると思う。この点は監督 と事前にできる限り話し合い、作品のトーンを見極めた上で決定していくべきだと思う。そのためには様々 な撮影データをとって勉強していかねばならないところだ。

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DVの利点のひとつにポストプロのデジタル処理があり、いままでは困難だった画像処理が比較的簡単にで きるようになってきている。『脚本療法』では編集上どうしてもつながらなかったパンニングショットを逆 再生してシーンを作り上げている部分がある。また微妙な色度調節、トーンの統一などがデスクトップ状で できることもあり、撮影者のポストプロに於ける役割はかなり重要になっていくと思われる(2作目の『三 原有三』ではカットのカラータイミングを一部この方法で行っている)。