手塚治虫のマンガの描き方
(講談社)
天才漫画家 手塚治虫氏が書いた、今となっては隠れた名著。
テクニックに関することだけでなく、メンタルな部分についても積極的に言及。プロからアマチュア、全くのシロウトさんまで読んで損ナシ。原点。

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表情って なんだ?

人間臭さを出すにはどうしたらよいのか。
失意のもとにバイブル「手塚治虫のマンガの描き方」をパラパラとめくる。

マンガの絵の第一歩は、まず人間の顔が描けるということである。
人間の顔が描けなければ、いくら机やヤカンや電車や一万円札を描いたって、マンガとしてはあまりおもしろくない。(66ページ)


この一文に目が止まる。
人間臭さ。
ユキダルマッチョの場合、顔は人間からほど遠いが(っつーか、雪だるま)、その中身は人間だ。人間には表情がある。表情を出すことによってユキダルマッチョをより人間に近づけることができるのではないか? 彼は顔が雪だるまなだけで、それ以外は人間なのだ。

バイブルを夢中で読み進めると、顔の描き方が載っている。目のいろいろ、鼻のいろいろ、口のいろいろ。 鼻の形を描き分けるのは、当然性格を表すことにもつながる。小さい鼻の人はひ弱な感じに、ワシ鼻の人は強そうな人に。しかしそれより、鼻の描き分けは、人種を描き分ける場合に必要になるような気がする。例えば欧米人を描く場合、小さな鼻にするよりは、鼻筋の通った高い鼻にした方がそれっぽく見える。
ユキダルマッチョは無国籍なので鼻をいじる必要はない。というより、鼻をいじってしまうと、雪だるまなのか、ただ顔の輪郭の丸い人なのかわからなくなってしまう恐れがある。雪だるまに見えなくなってしまったら、元も子もない。
やはり、目が大事になってくるね。手塚さんの例をとってみても、目の表情一つで、感情を表現しきっている。
ここは手塚さんをマネして、ユキダルマッチョの目に表情を付けてみよう。口の表情は目の表情に合わせ、オマケ程度でつけるのがちょうどよさそうだ。


誰? コイツら。ユキダルマッチョじゃなくなってるんですけど。
表情ってこういうことか? なんか、違くねぇ?
何かが違うような気がする。何故だ?
時計を見るとバンドの練習時間になってしまった。オレのバンドは毎週二回、必ずスタジオに入って練習をしている。ドラム担当のキヨタとベース担当のフルカワと待ち合わせ、いつものスタジオへ。次のライブのための曲を練習するが、オレの頭の中にはユキダルマッチョ。なかなか身が入らない。順調に進んでいたかに見えた練習も、とうとうストップしてしまった。
「おい、ノリツグ。どこか具合でも悪いのか?」
甘いマスクのキヨタが優しい声で話しかけてくる。
「あんまり女のことで悩むなよ」
彼女いない歴26年のブサイクなフルカワも話しかけてくる。
オレはギターを抱え直し、答える。
「イヤ。大丈夫だよ」
「ホントか? 顔色も悪いぞ。ちょっとそこで休んでろよ」
「女なんか悩みの種にするだけ時間のムダだよね」
「ホント、大丈夫だって。ライブ近いから、気合い入れてやらないとな」
「ノリツグが倒れたら、バンド自体の存続が危ないんだから。ちょっと休めって」
「イヤ。勘違いされると困るんだけど、オレがモテないわけじゃないんだよ」
「悪かったな。大丈夫だから。さ、始めよう」
「いいから休んでろって。ムリして倒れたらシャレにならないよ」
「モテないんじゃなくて、オレが女を寄せ付けない雰囲気持ってるっつーかさぁ」
「フルカワ。オマエ、うるさい」
キヨタが、とりあえずドラムとベースだけで練習しておくから休んでろ、と言ってきかないので、お言葉に甘えオレは休むことにする。スタジオの隅に座り、ユキダルマッチョのことを考えながら、ぼんやりとキヨタとフルカワの練習風景を眺める。二人は途中で演奏を止めるとディスカッションをし、また練習を再開する。話し合ったパートがうまく演奏できると笑い、失敗すると鬼の形相で言い合いをする。喜び、怒り、哀しみ、とても楽しげだ。二人とも全く違う顔なのに、表情によって笑っているのか怒っているのか判別することができる。オレのユキダルマッチョはこんなに豊かな「表情」を出すことはできない・・・。
そのとき。オレは気付いた。立ち上がるとオレはスタジオを飛び出そうとしていた。
「お、おい、ノリツグ! どうしたんだよ!!? 落ちつけよ!!」
出ていくオレを止めようとするキヨタ。
「女か!? 女なんだな!!? 女のところに行くんだな!!!?」
渾身の力でしがみつくフルカワ。
「行かせてくれ!」
「何があったんだよ!? 言ってくれよ! オレ達仲間じゃねぇか!!」
「どんな女なんだ!? かわいいのか!? かわいいんだな!! チクショウ、チクショウ!」
オレはキヨタのドラムスティックを取り上げると、キヨタをそれでぶん殴り、キヨタを殴った20倍の力でフルカワをぶん殴った。崩れ落ちるキヨタ。泡を吹くフルカワ。
すまん。みんな。オレの中のブルースがエクスプロージョンしちまった今、今が大事なんだ。今、ユキダルマッチョに命を吹き込まないと、ヤツは死んでしまうんだ。フルカワは今死んじゃったけど。