第三回「ボクはどんなキャラクターを描きたいのだろうか」二の巻

一般すぎるほどの一般人、人間最大公約数ことハギワラノリツグが一流のキャラクターデザイナーになるために、一年間という長い期間に渡って拘束される、ある意味サディスティックな、そしてどっかで聞いたことあるような企画です。
手元にあるのは「手塚治虫のマンガの描き方」という本、一冊のみ。
本を頼りに、手塚治虫に追いつけ追いこせ。
第二の手塚治虫を目指して、半分無理だと悟りながらもガンバります。
だからみんなもただ見てないで、ガンバレっつーの!

妄想、暴走。
修羅場。
貧弱 キャラクター

「どうすっかな。っつーか、どうなっちゃうの?オレ。ヤバイよ。イヤ、マジで。」
その日も創作意欲山盛りで机に向かうオレ。新しいアイデアが湯水のように湧き出てくるぜ。それというのも、買ったはいいけど被るのをすっかり忘れていたベレー帽のおかげだ。被った途端にテンション上がりまくり。手塚効果はすげぇ。降りてきたよ、神が。今いるよ、オレの中に。っつーか、もう、オレ自身が神?みたいな。
この自信に満ちた後ろ姿。女が見たらソッコーで惚れんべ。と、思っていたところで、玄関の扉が開く音。
ガチャ。
「う〜、さみぃな。」
まるでここが自分の家かのようにペン大王が入ってきた。
「おう、ノリツグ。イモ食う? さっきそこで大家さんにばったり会ってさ。『大王、ヤキイモあげるわ』だって。なんでオレの名前知ってんだっつの。なぁ・・・うぉ・・・!?」
オレは振り向き、ペン大王に言う。
「ヤキイモ・・・。今はそれどころじゃねぇよ。キテんだよ。キまくってんだよ!」
ドサリ。ペン大王はヤキイモを床に落とした。オレをじっと見る。
「す、すげぇオーラだ。一瞬、手塚さんがいるのかと思っちゃったよ。やっと目覚めたんだな、キャラクターデザインに」
「目覚めた、というよりも、目を覚ましましたね」
「同じことじゃん・・・。まぁ、いいや。どんなキャラクターができあがったのか、見せてみろよ」
「おうよ。腰抜かすなよ。」
ペン大王は床に落としたヤキイモを拾い上げると、それをほおばりながら、机の上を覗き込む。モグモグ。
「どれ。
『森羅万丈』
『波瀾万丈』
『満場一致』
『スティーブン・タイラー』
『はみだし刑事』
ナニ、コレ?」
「オレのペンネームに決まってんじゃないすか。先月『ユキダルマッチョ』完成したでしょう。ダルマッチョが売れて、トゥナイト2とかから出演依頼が来たときに、本名で出るのもどうかなぁ、と思ってですね。この一ヶ月間、説得力のあるペンネームを考えてたんすよ。そしたら、出るわ出るわ、アイデアが」
「出るわ出るわ、って。キャラクターのアイデアじゃなかったの? しかもたった五つじゃん。スティーブン・タイラーもはみだし刑事も既にいるよ」
「あ。それ捨て案です。オレとしてはですね。森羅万丈、ってのがいいかなぁ、と。この世の生きとし生けるもの全てを表す森羅万象って言葉に、矢吹ジョーをイメージした文字を入れてみました」
「五つのうち、既に二つ捨て案かよ」
「第二候補は、波瀾万丈、ですね。波乱に満ちた人生を送ってきたオレ自身を表す言葉に、矢吹ジョーをイメージした文字を入れてみました、っつーか、既に入ってたんですけど・・・」
はぁ、と、溜息をつくと、ペン大王は頭を抱え座り込んでしまった。
「どうしたんすか?」
「・・・れねぇよ」
「はい?」
「売れねぇ、って言ってんだよ!」
「何怒ってんすか? ははぁ、さてはとんでもないキャラクターを生み出してしまったオレの才能へのジェラシーですか?」
「ホント、ぶん殴んぞ、オマエ。そんな薄っぺらいキャラクターがウケるほど、世の中は甘くない、って言ってんだよ」
「自分自身を棚に上げてよく言うよ。無表情のくせに」
「バカヤロウ。オマエ、オレの顔はなぁ。コレはコレで味があっていいんだよ。ウケてるし」
「ユキダルマッチョはそんなに薄っぺらじゃねぇっすよ。絶対売れますよ。自分より個性のあるキャラが出てきたもんだから、嫉妬してるんでしょ? オトナゲない」
「そんな貧弱キャラ、痛くも痒くもないね。こんなんだったら、当分オレのポジションは安泰だな」
「コノヤロウ・・・。好き放題言いやがって。ユキダルマッチョが貧弱かどうか、試してみるかよ!? オレは腐ったミカンじゃねぇー!!!」
オレの後方からユキダルマッチョが表れ、ペン大王に向かって攻撃を仕掛ける。震えるぞハート! 燃え尽きるほどヒート!
「貧弱貧弱貧弱貧弱貧弱ぅぅぅ〜〜!!!」
ペン大王のペンから稲妻がほどばしる。稲妻がユキダルマッチョを包み、そして縛り上げる。ユキダルマッチョは悲鳴を上げる。
「んん〜。いい声だ。この声が聞きたかったぞ、JOJO〜」
イヤ。JOJOじゃねぇよ。ユキダルマッチョだよ。
ユキダルマッチョは稲妻によって、あっけなくひきちぎられ、そして消えてしまった。オレのユキダルマッチョが・・・。
ペン大王が、崩れ落ちたオレを見下した目で見る。
「今、ユキダルマッチョを見てわかっただろう。悲鳴を上げるほど苦しいときでも表情を変えない。あいつは楽しいときも表情を変えないだろう。先月、オマエは『ユキダルマッチョは雪のふらない国の子ども達に雪を届ける使者なのだ』と言ったな。そんな笑顔も見せることのできないヒーローを、子ども達が喜ぶと思っているのか?」
そうか。薄っぺらいとはそういうことだったのか。表情を変えないことで揺るぎない個性を持つキャラクターもいるだろう。しかし、ユキダルマッチョは子ども達と一緒に笑うことで初めて存在することができるキャラクターなのだ。人間臭さを持っていないユキダルマッチョは、それはただの、なんつーか、気持ち悪いヤツだ。
ユキダルマッチョ、という枠はできた。その中に生命の息吹を吹き込まなければ、厚みのあるキャラクターにはならない。
「オレはいったいどうしたらいいんだ・・・」
「どうしたらもこうしたらも、ねぇよ。バイブルをちゃんと読めって何回言ったらわかるんだ? 自分のキャラクターの欠点に気付いたのなら、その答えはバイブルの中にちゃんとある」