新生ユキダルマッチョ。
下克上にリーチ。
次回、謎の人物の正体が
明らかに・・・!
表情ひとつで 広がる世界

家に戻り、机に向かう。
オレが考えていた「表情」。それは本当の意味での表情とは似て非なるものだった。
オレが描いていた、ユキダルマッチョの表情と思っていたものは、それはただの「顔のカタチ」ってだけだったのだ。ベースとなる顔のカタチができあがる。そこで初めて表情を持つことができるのだ。
バイブルにはこう書いてある。

さて、基本的な顔の造作ができたら、おつぎは表情である。
マンガの人物が生き生きとするか、死ぬかはこの表情で決まる。そして、その表情は、実際に人間ができないような表現もできるのだからたのしい。(75ページ 下線筆者)


文脈を読み取れなかった。恥ずかしい限りでやんす。手塚さんはちゃんと「人物の描き分け」と「表情の描き分け」を、書き分けていたじゃないか。
やっとオレはユキダルマッチョに感情を与えることができる。
やはり、元の顔は「美少女マンガ風」や「白土三平風」ではなく、最初に描いた「普通の雪だるま風」が一番よい。もともと雪だるまだし。
バイブルを参考に表情を付けていく。パターンを出したときと同じく、やはり鼻は変えない方がいい。眉毛と目、そして口だけで表情をつけることはできる。それどころか、眉毛だけでもいいくらいだ。
ユキダルマッチョは常に微笑んでいたほうがいいかもしれない。困っているときも微笑んで、怒っているときも微笑んで、そして笑うときは必要以上に笑ったほうがいい。なんてったって子供の味方だ。常に笑顔が好ましい。そうすることによって、結果、表情の変化が乏しいということにもなりそうだが、ホントに怒ったときだけ顔全体が変わる、って設定のほうがおもしろいし、個性が出るかもしれない。いい意味での無表情キャラクターの誕生だ。


ほら。ほら。
眉毛の違いだけでこんなにいろいろな表情が表現することができる。いままで当たり前と思っていたことが、こんなに大事なことだったとは。手塚さんが提示した基本的なサンプルだけで、こんなに表情がかわる。
手塚さんはこうも書いている。

ひと目見て、なんだか知らないが平凡で退屈だなあと思うマンガはの絵は、たいがい人物の表情のゆたかさに欠けている。労働組合の機関誌とか、社内報とか、公共の刊行物なんかに載っている漫画風のカットは、おおむねつまらない。
それも人物の表情がありきたりだからである。
挿画の、表情の基本的な形をもとに、うんと奇抜で、新鮮で、オリジナルにあふれた表情をつくってください。(75ページ)


そう。彼が本の中で提示しているのは、ほんの一例なのだ。それ以上、キャラクターが躍動するかどうかは描いている本人のオリジナリティにかかっている。
オレ、がんばるよ、手塚さん。

「うぃ〜っす。寒いね、どうも。風邪ひいちゃった。熱39℃よ? 39℃。鼻水も止まんねぇし。半裸もツライよね。ズルズル」
玄関の扉が開く音。ペン大王が入ってきた。
「ノリツグ、イモ食う? 大家さん、またヤキイモくれたんだよ。他のモンくれ、っつーんだよな。もらっといってなんなんだけどさ。ズルズル」
「ペン大王。アンタ、もう終わりだよ」
ヤキイモが床に落ちる。部屋の空気がピンと張りつめる。ペン大王の表情が変わる。
「今、なんて言った?」
「アンタ、もう、終わりだ、って言ったんですよ」
「ユキダルマッチョか・・・。何かつかんだのか?」
「つかみ・・・まくりだぁぁぁぁぁ!!!」
ユキダルマッチョがペン大王に飛びかかる。ペン大王が構えたペン先から稲妻がほどばしる。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ〜!!!」
稲妻がユキダルマッチョにからみつくが、ユキダルマッチョは悲鳴を上げない。必死に耐えている。そして稲妻の檻を破ると、ペン大王に会心の一撃。しかし、攻撃はペンにガッチリとガードされる。膠着状態が続く。
「表情をちょっとつけただけで、こんなにパワーアップするとは・・・。ユキダルマッチョ。ホントはすごいキャラクターなのか・・・? イヤ、そんなはずはない。コイツはダメキャラクターのはずだ。ズルズル」
「何をブツブツズルズル言ってんだ? 勝負はこれからだぜ!」
「やってられるか」
ペン大王は一瞬の隙をついて玄関から飛び出そうとする。
「待て、コラ! ここで一気に下克上してやんぜ!」
「待つか、ボケ。今日は風邪気味で調子が悪いから、出直してきてやるよ。ズルズル」
ペン大王が玄関から飛び出そうとしたとき、誰かが入ってきた。
「なぁ〜にバタバタ騒いでんだ?」
ペン大王の顔色が変わる。
「オ、オマエは・・・!」


---つづく---

 
 ハギワラノリツグ プロフィール
千葉県出身の26歳。インディーズバンド「バックドロップス」のリーダー。
一応美大のデザイン科出身だが、在学していた4年間で学んだことは「オレはデザインができない」という一点のみ。音楽で生計を立てていくことを誓うも、ナカズトバズでやんす。今回2年ぶりに絵筆を持ちます。運だけで生きてます。よろしく。
あ。2nd アルバム「DELTA END」絶賛発売中です。

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