手塚治虫のマンガの描き方
(講談社)
天才漫画家 手塚治虫氏が書いた、今となっては隠れた名著。
テクニックに関することだけでなく、メンタルな部分についても積極的に言及。プロからアマチュア、全くのシロウトさんまで読んで損ナシ。原点。
とりあえず描いてみる
イラスト波
とにかく 描いてみる

ペン大王は、床に座りなおすと言ってきた。
「さて、この一ヶ月間で、どの程度キャラクターデザインの腕が上がったか。見せてもらおうかな」
その挑戦的な態度にトボけた面構え。いつもながら腹の立つ立ち居振舞いにムカついたオレ。売り言葉に買い言葉。
「おう。魅せてやるぜ。」
言ったオレは紙に向かってペンを走らせ始めた。
数分後。描きあげたキャラクターをペン大王に見せる。そして魅せる。


「なんだ?コレ」
「なんだ? って。オレのオリジナルキャラっすよ」
「っつーか、コレ、どっかで見たことあるなぁ」
「気のせいでしょう」
「気のせいじゃねぇよ。思いっきりパクリじゃん。怒られるぞ、オマエ」
さすが、キャラクター創造の神。バレたか。
しかし、オレ、描こうにもシロウト中のドシロウト。何を描いたらいいのかわからない。何を紙に写し出せばよいのか。
「簡単に『オリジナル』って言いますけど、世の中にこれだけオリジナルが溢れていると、何が真で何が偽なのかわからなくなっちゃうんですよ」
「君はバイブルを全然読んでないな。一番最初に書いてあるではないか。

さて、こういうふうに述べていくと、なんだ、落書きじゃないかと思われるであろう。さよう、落書きなのだ。マンガは、落書きから始まるのだ。
〜中略〜
落書きは楽だ。他人に見せるわけではなし、自分が描きたいものが描けるし、どんなに絵が下手だって、安心して描ける。
これがマンガの本質だ。そして、これこそ、マンガのもつ、ほかの絵とは違う重要な特徴である。いま、落書きを描いたあなたは、りっぱにマンガをつくることへの第一歩を踏み出したのだ。(14ページ)


ちゃんと読みなさいよ」
「『落書き』ですか。じゃぁ、ボク、ちゃんと『第一歩』踏み出してるじゃないですか」
「誰も『パクれ』とは言ってないだろ」
あー。もう、わかんねぇ。テンション下がる。このトボケ面は何を言っているのだろうか。とにかく描くことが第一歩だ、と言っておきながら、それは違う、と言い出す。ふてくされるオレ。もうやってらんない。こんなヒマがあったらギターの練習をしていた方がマシだ。
「おい。ワタシの話を聞いとるのかね?」
「あんだって?」
「なんだ? そのふてくされた態度は?」
「何言ってるのかわかんねぇっすよ。アンタも手塚さんも」
「しょうがない。ならばコレを授けよう」
溜息をつくペン大王。そしておもむろに立ち上がると、
「これはな。キャラクターを造り上げるうえでとても大事なものを、君の体内に宿す技だ。一日一回しか出せないからちゃんと受けとめるんだぞ」
そう言って、天に向かってゆっくりと両手を突き出す。
「地球のみんな。オラに元気をわけてくれ!
「イヤ。アンタこそパクってんじゃん」
ペン大王の両の手のひらが光りだした。その光が家の天井に達するまでに膨れ上がったとき、ペン大王はその光の玉をオレに投げつけた。
「イラスト波ー!!!!!!」
光の玉がオレを包み込む。その光はなま暖かいような、それでいて柔らかく、少しエロティックでロマンティックだった。光の玉が消えていくにつれて、オレの中になんとも言えないパワーがみなぎっていく。
「すげぇ! すげぇよ! すげぇテンション上がっていくよ!」
「イラスト波の光は君の中の潜在能力を最大限にまで引き出す。今、君はキャラクターの創造主になった。そのパワーを紙に向かってぶつけてみなさい。君の才能全てを。きっと素晴らしいキャラクターが浮かび上がってくることだろう」
「うぉー!!! キた キた キた ヰタ・セクスアリスー!!!」
叫んだオレの口から眩いばかりの光が飛び出し、目の前の紙にぶつかる。光の玉は分裂し、まるで流星のように紙の上を縦横無尽に走り回る。流星の流れた後の紙の上には黒い線が浮かび上がってくる。なんと! この流星はキャラクターを紙の上に浮かび上がらせようとしているのだ。なんということだ! これがオレの潜在能力なのか。今まさに、ここにオレの才能全てが目に見える形で現れようとしている!


「なんだ?コレ」
「『なんだ?コレ』って・・・こっちが聞きてぇよ。オメェ、オレをナメてんのか?」
「なんか、さっきよりパワーダウンしてるね。ははは」
「ははは、じゃねぇよ。なんか人間的に否定されたみたいで、すごく腹が立つんですけど」
「おっかしいなぁ。こんなはずはないんだけどなぁ」
コレがオレの才能・・・オレの全て・・・。久々に本気でヘコんだんですけど。
「そ・・・そんなに・・・ねぇ? 気を落とさずに。ね?」
「もういい・・・。オマエ帰れ・・・。」
「イヤ。でも・・・」
「いいから帰れって」
「う、うん。そうだね。そろそろおいとまするね。ホント、ゴメンネ。良かれと思ってさ・・・」
ペン大王は去っていった。オレ、ふて寝。涙を堪えるので精一杯。