自分を信じて描きまくる
世界は示唆に満ちている
チーム・アンディ
「描きたいものを描く」 ということ

いつの間にか寝てしまったらしい。目のまわりは乾いた涙でカピカピ。とりあえず顔を洗った後、机の前に。イラスト波で描いたキャラクターをじっと見つめる。
本当にコレがオレの全てなのだろうか。自分ではオレはもっとすごいヤツなんだと思っていた。それは思いこみだったんだろうか。今までの人生を振り返ってみる。親父・・・お袋・・・アニキ・・・。
ふと目に付いた「手塚治虫のマンガの描き方」。パラパラとページを繰ってみる。手塚治虫は、天才は、自分自身に疑問を持ったことはないのだろうか。

描くことの生き甲斐は、生活の確立とか、食うことの保証とか、ましてや楽をしようなんて欲からはほど遠いものなのだ。 〜中略〜
だが、プロとして出発するにはきわだった個性が必要となる。
この個性がどんなしろものなのか、描いている本人には絶対わからないのであって、これを掘りだすのは、第三者だ。だから自己満足に陥って、自身過剰のままマスコミ界へ飛びこむと、袋だたきにあって、都落ちとなる。マンガ界は、予想以上にきびしい世界である。(37ページ)


ハッと気付いた。忘れかけていたことに。
どのような場合においても、その世界でプロフェッショナルになろうと思ったら、必ず壁はあらわれる。その壁を乗り越えてきたからこそ、天才手塚治虫があるのだ。オレも音楽の世界でその壁を越えようとしている。そして、個性を掘り出すのは第三者、という言葉。それは音楽でも同じ。オレはオレのブルースをエクスプロージョンさせるだけだ。才能はすぐに通用するものではない。磨くことを忘れた才能はただの石ころとなんら変わりはしない。
今、目の前にある気の抜けたキャラクターがオレの才能なら、コレをとことんまで磨いてやろうじゃないか。
そこに壁があるから叫ぶのがロックンローラーだぜ。

それから深夜まで、オレは描き続けた。オレの才能の欠片を磨き続けた。先月から続けている、観察眼特訓で得た情報もフル動員させて、オレはあらゆる世の中の事象を盛り込もうとした。ガングロにしてみたり、ウィッグをつけてみたり、厚底ブーツを履かせてみたり。って、ギャルしか観察してなかったのか?オレ。
描いては捨てを続ける。しかし、納得のいくシェイプを得ることができない。
煮詰まる。アタマがショートしそうだぜ。
気分転換に外に出てみることにした。寝静まった夜の街を歩く。やがて、アタマが冷えてきた頃気付いたのだが、外はやけに歩きにくく、すごく寒い。後からニュースを見てわかったのだが、この日、関東地方は三年ぶりのドカ雪。
雪は降り続いている。
視界が悪く、5m先も見えない。
家のある方向も見失ってしまった。
雪に慣れてないオレ。
かる〜く遭難。
南極やチョモランマならまだしも、都心で凍死なんてシャレにならない。方向はさっぱりわからないが、動いていないとホントに死んでしまいそうなので、とりあえず進む。寒さは徐々にオレの体を蝕んでいく。必死にもがいていたが、もう気力体力の限界。
薄れいく意識の中、思う。
「南国の人たちは、自分がこんな形でこの世から去っていくなんて、想像もできないんだろうな。それよりなにより、南国の人たちは『雪』の存在を知っているのだろうか。子ども達なんて、雪を見たらどんなにびっくりするだろう」
倒れ込むオレ。その時、ピタリと雪が止んだ。うっすらと目を開ける。目の前には誰かが作った雪だるまが立ちすくんでいた。
オレの体に電流が走る。
「『キャラクター創造』っていうのはこういうことだったのか! ブルース・エクスプロージョン!!!!!」
体に力がみなぎる。オレはガバッと立ち上がると、勢い余って雪だるまにかかと落とし。割れる雪だるま。走るオレ。
家に帰ると、ビショ濡れの体を拭く時間も惜しんで机に向かう。かじかむ指を噛みながらペンを持つ。
ペンが進む。紙の上にはキャラクターが創造されていく。
「単純なことだった。遭難しかけて気付いたぜ。大事なのは『ただ描く』ことではなくて『描きたいものを描く』ということだったのだ。手塚治虫が『落書きから始まる』と言ったのは、何てことはない、落書きというものは、自分の無垢な気持ちをそのまま反映しているからなのだ。
オレはロックンローラー。壁をシャウトでぶち壊し、壁の向こうにあるものを、みんなに見せる先導者だ。不可能を可能にするのだ。雨の降らない国には雨を降らせよう。風の吹かない国には風を吹かせよう。そして、雪の降らない国の子ども達に、雪を届ける使者は、コイツだ!」


なんだ?コレ。


---つづく---

 
 ハギワラノリツグ プロフィール
千葉県出身の26歳。インディーズバンド「バックドロップス」のリーダー。
一応美大のデザイン科出身だが、在学していた4年間で学んだことは「オレはデザインができない」という一点のみ。音楽で生計を立てていくことを誓うも、ナカズトバズでやんす。今回2年ぶりに絵筆を持ちます。運だけで生きてます。よろしく。
あ。2nd アルバム「DELTA END」絶賛発売中です。

バックドロップス Official Site



このページに掲載されているキャラクター・画像・文章の無断借用・転載は法律によって禁じられています。