第四回「こいつはいよいよ動き出す」の巻

一般すぎるほどの一般人、人間最大公約数ことハギワラノリツグが一流のキャラクターデザイナーになるために、一年間という長い期間に渡って拘束される、ある意味サディスティックな、そしてどっかで聞いたことあるような企画です。
手元にあるのは「手塚治虫のマンガの描き方」という本、一冊のみ。
本を頼りに、手塚治虫に追いつけ追いこせ。
第二の手塚治虫を目指して、半分無理だと悟りながらもガンバります。
だからみんなもただ見てないで、ガンバレっつーの!

あやつられ中。
悪魔の高笑い 義剛。
PRIDE。
燃えない 義剛。
ヨシタケ

ちょっと熱めのシャワーを浴びる。
頭のテッペンからから爪先まで流れる間に、確実に水の温度は下がる。その下がった分の温度が、オレの身体の中に蓄積されていく。芯まで温まるまでにはまだ時間がかかりそうだ。身体の表面は熱いのに、一皮むけば寒さに震えるオレがいる。
そうだ。いつもオレは震えている。誰にもその震えを悟られないように。それだけを考えながら生きている。それだけを考えながら、この先もオレは生きていくのか? その自問自答を繰り返しながら、オレは生きていくのか?
フッ・・・
オレは鼻で笑う。
もしかしたら人生なんてそんなものなのかもしれない。不器用なのはわかっている。この短い人生の中で、そう多くのことなんか出来やしないさ。
シャワーを止める。役目を終えた水達は、排水溝に渦を巻きながら消えていく。
タオルを羽織り、クシャクシャになった煙草をくわえる。冷蔵庫をあけ、取り出すのはキンキンに冷えたビール。冷えたビールがオレの身体を暖かくする。
オレが人生の中で得たものはグレッチのギターと熱いシャワー、不味い煙草と冷えたビールだけ。今までコイツらと一緒に生きてきた。そしてこれからもコイツらと一緒に生きていくのだろう。身体の中に怖いほどの寒さを抱えたまま・・・

って、あれぇ?
なんで、オレ、ビールなんか飲んでんだ?

「やっと我に返ったか、馬鹿者」
目の前には背の高い宣教師風の男。
そういや、コイツ、先月号の最後、ギリギリで登場してきたヤツだ。
「誰なんだよ、オマエは。勝手に人の家にあがりこんで来やがって」
「ワタシの名前は義剛。ペン大王がキャラクター創造の神なら、ワタシはストーリー創造の神だ」
え?『ヨシタケ』って・・・日本人なの?アンタ。
「この『ノート・ザ・ドリーマー(A4版)』に書いたことは、現実のものとなる。これがワタシの武器だ」
「『ウィングマン』のパクリじゃねぇかよ。桂正和先生に怒られるぞ」
「これに『ノリツグ、シャワーを浴び、ビールを飲む』って書いたわけだ。ついでにこんなことも書いておいたぞ」
そう言うと義剛はノートをオレに向けた。そこには「ペン大王、タンスの中で悶絶死」と書いてある。そういやペン大王の姿が見えない。
「ワタシを追い返そうとしてうるさいので消してやったよ。フフフ・・・」
オレはクローゼットの扉を開ける。そこには服にまじって、吊り下がってるペン大王が。息も絶え絶え、顔色も真っ青で「寒い寒い」と言い続けている。変なク○リに手を出しちゃった人みたいだ。クローゼットの中から助け出してやると、ペン大王は途切れる声でオレに言った。
「気をつけろ・・・ヤツは天界でも恐れられてる男だ・・・まともに闘ったらワタシの二の舞だぞ・・・」
「そういうことだ・・・フフフ」
不敵な笑みを浮かべる義剛。その顔を見ていると、なんつーか、こう、ムカついてきた。怒りをあらわにすると、オレの背後にはユキダルマッチョが現れる。
「ほぅ。それが例のキャラクターか。そんなキャラ、ワタシの『ノート・ザ・ドリーマー(A4版)』を使うまでもない」
ユキダルマッチョが飛びかかる。ひらりと体をかわす義剛。ギリギリのところでかわされ続ける。
「体当たりしかできないのか? 強い強い正義の味方が聞いてあきれるね」
高笑いする義剛。あぁ、もうキレた。オレ、プッツンよ、鶴ちゃんよ、マジで。
ユキダルマッチョを引っ込め、オレ直々に真っ向からズンズン義剛に近づく。
「お? ワタシを殴るのか? オマエにできるのかな?」
ノートを広げ、何かを書こうとしている。しかし、そんなもん関係ない。怒りは頂点に達している。ドン・ボルガン。
「えーと。『ノリツグ・・・血ヘドを吐いて・・・』。今書き終わるからちょっと待ってろよ」
オレはズンドコ近づく。
「『もんどり打って・・・めんどりが・・・』ちょっと!まだ書き終わってな・・・」

コキュ

猪木ばりのチョークスリーパー。安らかに眠れ。
グッタリしてる義剛を横目に、ノートに書く。
『ペン大王、復活気味』
すると、青ざめていた顔色が、みるみるうちに土気色に。元気になっても土気色かよ。
元気になったのはいいが、ひいていた風邪は悪化。厳密に言うと、全く元気になっていない。
「オマエが、復活『気味』とか書くから、微妙な体調になっちゃったじゃねぇかよ。ズルズル」
「ところでよ。コイツ、どうしますか?」
「ん? 義剛か? 燃えないから木曜日だな」
家の前。義剛をゴミ収集所にドサリ。
「しかし、アイツ。何しに来たんですかね?」
「どうせ手塚さんに怒られて、その腹いせに、我々のことイジメに来たんだろうよ。ズルズル。ところで『ノート・ザ・ドリーマー(A4版)』も捨てちゃったの?」
「ええ。あんなもんに頼ってたら、人間がダメになりますよ。道は自分の力で開いていくもんです」 「イヤ。そういうことじゃなくてさ。あれは資源ゴミだから月曜日だろって思っただけ」