手塚治虫のマンガの描き方
(講談社)
天才漫画家 手塚治虫氏が書いた、今となっては隠れた名著。
テクニックに関することだけでなく、メンタルな部分についても積極的に言及。プロからアマチュア、全くのシロウトさんまで読んで損ナシ。原点。
電話越し、ペン大王に怒りのアフガン。そしてふて寝のアフガン。
ビシビシすごいスピードで作っていくホリ君。
3D Sdudio MAXのカラー・テクスチャパレット。ものの色や質感はここで設定する。
モデリングしたユキダルマッチョにボーンを埋め込んでいく。
写真はキャラクタースタジオを使用してボーンを埋め込んでいくところ。
背景を作ってます。
夏の 思い出

あれはまだ夏まっさかり。うだるような暑さの中、オレは心にある野望を抱いていた。前回の『拝啓手塚先生』の最後を読んでいただければおわかりいただけると思う。そう。その野望とは『一秒30コマの世界でユキダルマッチョを動かす』ということだった。
しかしアニメーションのアの字も知らないオレにとってその世界は全くの未知なる領域だった。何から手をつけていいのかわからない。あぁ、辛いなぁ。貝になりてぇなぁ、切ないほど今すぐに。
そんなフランキーな気持ちになっていたとき、電話のベルが鳴った。
「もしもし?」
「あ、ノリツグー? ペン大王だよ」
おぉ。これぞ天の助け。コイツなら何かヒントのようなものを教えてくれるだろう。
「あ、コノヤロウ。今どこにいるんだよ」
「最近忙しくてさ」
「忙しいなんて理由になんないよ。オレを育てるのがあなたの役目でしょ?」
「でも、一番プライオリティ低いしな。オマエの存在に比べたらドラクエ4のレベル上げする方が、優先順位高いもん」
すんげぇないがしろにされてる。寂しいとか切ないとかを通り越して、怒りしか沸いてこない。どうしてこの木訥裸族はオレを怒らせるのがうまいんだろうね。
「ドラクエはどうでもいいから、早くウチに来てくださいよ。聞きたいことがあるんですよ」
「ヤダよ。今日中に全員のレベル、60まで上げるんだから。質問だったら今聞くよ」
ムキー! むかつく。しかし、ここはガマンだ。聞くことさえ聞き出してしまえば、後は煮るなり焼くなり好きにできる。コンクリ抱かせて東京湾に沈めてやんぜ。怒りを抑えて冷静に質問する。
「アニメーションのことなんですけど・・・ユキダルマッチョをですね、一秒30コマで動かしたいんですよ」
「あー。それねぇ・・・オマエにはムリ。おほほほほ」
『ぶぎゅっ』。へぇ、堪忍袋って切れるとこんな音がするんだね。
「テメェ、コラ! そこで待ってろ! 今からぶっとばしに行くからな!」
「イヤ、ウソ。そんなに怒るなよ。それに来るって言ったって、ここ『エデンの園』だよ。普通の人間に来れるわけないじゃん」
「あん!? 『えでん』って何県だ? 飛行機乗って行くから、待ってろよ!」
「イヤ、日本じゃないから・・・。わかったわかった。強力な助っ人用意するから。今回はその人に教えてもらいなさい、ね? その人から連絡行くようにするから。じゃあね」
「あ、おい、ちょっと・・・」
ガチャン。
電話は切れてしまった。なんか、アイツ、だんだん投げやりになってきてないか? ホントにオレのこと育てる気あるのかな。

電話のベルが鳴る。オレがこんなやるせない気持ちになっているときに電話をかけてくるとは不躾な。どうせ「おめでとうございます。あなた様は356000人の中から選ばれた幸運なお方なのです。幸運ついでになんなんですけど、ちょっとアンケートに答えてくれねぇか? 5分で済むからよ」みたいなとぼけた電話なんだろう。グゥの音も出ねぇぐらいに罵倒してやる。
「もしもし?」
「あ゛!?」
「あ、あのぅ。ボク、ホリといいますけど・・・」
「どこのホリだ!? あ゛!?」
「あ、あれ・・・? ノリさん・・・だよね?」
「だから、どこのホリだ、って聞いてんだろ!? あ゛!?」
「大学のとき同期だったホリだよ」
「え? あ、ホリ君? 久しぶりぃ」
何故このタイミングで、しかもホリ君から電話がかかってくるのか。
学生時代を思い返しても、ホリ君は優秀、オレ、ゴミ。甲乙丙で言ったらホリ君が甲、オレ、丙どころか塀だった。まるで壁あつかいさ。だからいつもみんなの輪の外からホリ君を見ていた。クリエイティブな話題で盛り上がっている輪の外から、へっ、くだらねぇって目でさ。でもホントは羨ましかったんだ。輝いてたんだもの。輝いてる彼らを後目にやさぐれてたオレ、なんか変なところばっかり黒ずんじゃって。
「ど、どうしたの、ホリ君。突然電話なんて・・・」
「いや、なんか『後生だから助けてやってくれ』って言われてさ」
「誰が誰を助けるの?」
「ボクがノリさんを。『ノリツグの作ったキャラクターをなんとかホリ君の力で動かしてやってはくれまいか』って頼まれたの。だから電話したの」
そうかそうか。そういや学生の時分からホリ君は3DCGやアニメーションに詳しかったな。ペン大王の言ってた『強力な助っ人』ってホリ君のことだったのか。風の噂で聞いたところによるとホリ君は若くして業界の最前線で活躍してるみたいだし。頼りになるね。
「そーかー。イヤ、ありがとうホリ君」

ホリ君の事務所にいくとオレは早速ユキダルマッチョの原画を見せた。
「あのぅ、これなんだけど。大丈夫かな?」
「あぁ。全然問題ないよ」
ホリ君はあっさりと言うと
「で、ギャランティーの件なんだけど」
と聞いてきた。ギャランティー?
「なんか電話くれた人が『ギャラの件はノリツグと話してちょーだい』って言ってたよ」
ペン大王のヤロウ。そんな話は一言も聞いてねぇぞ。でもここまできてやめるわけにもいかないし、こういうのは気持ちだからな。オレの情熱を乗せて届け、ホリ君へ!
「今、3000円しか持ってないんスけど・・・スミマセン」
結局ホリ君はやってくれた。ええ人や。

今回はユキダルマッチョを3DCG化することになった。ホリ君が3DCGが得意だというのもあるし、何よりオレが3DCGに興味があったからだ。ホリ君はさっそくユキダルマッチョをモデリングしていく。頭の部分は一から作り上げていき、別で作った顔だけのテクスチャをマッピングする。要するに顔の絵を貼りつけるわけだね。体の部分はもともと用意されてあった人体のモデルを元に加工。ユキダルマッチョは人間と比べると手足の比率などが全然違うので、イメージに近付くまで何度も修正していく。
続いてできあがったユキダルマッチョに『ボーン』を埋め込んでいく。ボーンというのは骨というか関節というか。このままだとぬいぐるみと同じなので、曲がる部位に関節を設定してあげないといけないのだ。そうしないと例えば肘で曲がるはずの腕が、まるでパイプを折ったようにひしゃげてしまう。今回は『キャラクタースタジオ』というソフトを使用する。これを使うととても楽にボーンの設定ができ、しかもこのボーンに様々なモーションキャプチャーデータを適用することができるのだ。
今回はダンシングベイビーでおなじみのダンスを適用してみた。
いざ動き始めたユキダルマッチョ。背景が真っ白な中で踊らせてもなんか寂しい。同じ白なら雪国はどう? ってなわけで調子に乗ってムリな注文。背景を南極にできないか頼んでみた。そしたらホリ君、ちゃっちゃと作ってくれたよ。ブラボー。
3DCGのことを何も知らない初心者の方にどこまで伝わっているか不安だ。だってオレもよくわからないで書いているからね・・・。でも今回ホリ君がやっていることは3DCGをやる人にとってはすべてが基礎知識。でもオレにとってはすべてが魔法に見えたよ。