第一次VJブームのあった90年初期に影響を受け、今のVJシーンを牽引するものは多い。
VJ MASARUもその一人だ。元々映像作家でありながら、自らプログラムをコーディングする多彩な彼を支持するVJも多い。もちろんHITS!など人気クラブイヴェントのVJも務めている。反面彼には、その気負いを感じさせない。「VJは、本当に面白い。」という彼を直撃した。

彼のスタジオには50年代のミッドセンチュリーモダンで揃えられ彼のセンスのよさが感じられる。その中でも一緒に鎮座しているゲーム筐体や、LSIゲームが目を引く。


------ 猪蔵
 VJ以前に映像製作をされていると思うのですが、まず映像を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

------ MASARU
 純粋にCGをやりたくて仕方ない時期があったんですね。ただその頃、現在のように家庭用のコンピュータでやることは到底無理でしたね。それでも、コモドールとかアミーガで映像作っている人がいて、でも僕には、高嶺の花で、思ったんですね。
 お金とかない若い頃で、お年玉ためても到底無理で(笑)。当時、BASICという言語が流行っていて、メガデモみたいなもの創っていましたね。ちょうどその頃の映画で「TORON」があって、衝撃受けましたね。これだこれだ!みたいに。これをまずやりたいというのが原体験で現在にいたるわけですね。でも、相変わらず機材との壁があって、X68000というコンピュータで、やっとレイトレーシングができるように頃で。その頃のモデリングといえば、ただ積算でオブジェクトをくっつけるだけという。それも1フレームの2,3日とかかっていたんですね。これは、もうだめだと。その一方だんだんとクラブイベントの方にのめりこんできてた頃で、イヴェントのオーガナイズも始めたり、ラジオ番組でDJをしたりとかMTVの司会とかやっていて、音楽の方にのめりこんでいましたね。もちろんその片隅に映像のことは、ずーとありましたよ。

------ 猪蔵
 では、初めて映像を流したのは?

------ MASARU
 19歳くらいの頃です。場所は、六本木ですかね。今では、大御所になったDJ HONDA やKRUSHが出ているクラブやイベント。店から吊るしているテレビのモニター24インチと本当に暗いそれでも3管式のプロジェクターでやりましたね。ちょうど、ワイヤフレームっぽい映像を多く使用していましたね。メガデモっぽいものを作っていましたね。クラブが好きで、映像ということになると今のVJの条件にはまりますね(笑)。
  さらに仕事の関係で、ニューヨークにいた頃、ニューヨーク大学の映像心理学を受講したら、「映像」に関して更なる思いが積もりましたね。CG熱が再燃しましたね。もちろん向こうのクラブもチェックしていましたから、まだビデオドラッグが出る前だったんですけどそれに近いプロジェクションをやっているのをみたんですね。もちろん日本でもGOLDなんかでやられる方出てきた頃だったんですけどね。クラブに映像を持ち込むことはありだなと思ってんですね。音があって、聴覚に。お香をたいて、嗅覚に。じゃあ、何で視覚はないのかな?と刺激したくなったんですよ。もちろん照明ということで、光もそうなんですけどね。僕は、純然たる映像を取り入れたかったんですね。当時3菅式のプロジェクターがあればいいんですけどない場合なんかは、モニターを借りてきて9個積み上げてマルチ画面 でやったりとかしていましたね。

------ 猪蔵
 今の状況どうですか?

------ MASARU
 VJと最初言われて、ぼくはかなり戸惑いましたね。ちょっと恥ずかしかった。VJソフトが出現してかなり映像について遊ぶことができるようになったのは確かです。ただ、既存のソフトは、キーに割り当てるとメモリーに命令が蓄積されてしばらく残っている感じがどうもしっくりこないんですね。もうちょっとレスポンスがあがってくればなという感じはあります。これくらいだったら自分でプログラム書いちゃいます(笑)。
  あとは、拡大するのではなくフルスクリーンでやらないと(笑)。
このあたりがですね今のVJのスタイルに違和感を感じる所ですかね。

------ 猪蔵
 実際業務用で、VJしにいくと機材の量に辟易しませんか?あと今はVJとしてどんな依頼が多いのですか?

------ MASARU
 それはありますね。企業から依頼されのが多いですね。逆に名前が先行して、依頼が来ますよ。元々映像製作なのに。企業主宰イベントのVJも多いですね。ファッションショーとか、プロモーションとか、制約がありますけどね。もちろん純粋に楽しみながらできるイベントも参加していますよ。そうそれで思いだした。ギャラに関することなんだけど、「出れば良い方」とか「食えない」状況って言うじゃないですか。よく、VJは、食えないとか食べられないって言うじゃないですか。それは、食えないんじゃなくて、ちゃんと打ち合わせをしていないとか、請求書とか出していないとかじゃないのかな。ただ作品をプロジェクションするだけがVJじゃないと思うんです。そこら辺も踏まえて、自分で責任を負わないと。ただ作品を専門学校で言えば、卒業制作を「出したい」「見せたい」が先行しすぎているような気がしますね。
  よく「プロの…」とかいうじゃないですか。基本的に僕はお金もらったらプロだと思うんです。クライアントに要求されたこととか、映像を製作するのと同じように責任を持たないと行けないと思うんですね。若い子って「見せたい」、「でたい」、というのが先行しすぎているように思います。

------ 猪蔵
 そうですね。あとこれは大事だと思うんですけど、「音楽」と「映像」のことが分かっていないのが、辛い。「ただで良いから」というエクスキューズがつくのは辛いですよね。そういう子に限って映像に関してもかなり無責任で、場を作ることもしない。最近若い子達、弟子にしてくれとか言ってきます?

------ MASARU
 いますよ(笑)。どこで僕のメールを仕入れてきたのか分からないのですけど、来ますね。一回「アンナ音盤」という番組に出たんですけどその放送後は、すごい来ました。200通 くらいは来ていましたね。で、音楽雑誌のgrooveに自分が載った時、告知を載せてワークショップを開いたんですね。新宿区民センターを借りて開催することにしたんです。、本当にこれからやりたい人を中心にメールを返して参加してもらいました。どうやるかとかテクニックとかはやらないで、本当の簡単な説明に終わったのですが。今はもう、PCからはいったひとも素材作りという所まで来ていると思います。ただ猪蔵さんの言葉通 りPC出身者は、やっているのは、コンピュータで音楽を全然聞いていないは辛いですね。
  たまに一緒にやる若いVJの子がいるんですけど、ピートロックが全国ツアーの時一緒にやることになったんですね。思いきりヒップホップなのにテクノでやっている素材変わらないんですよ。音との絡みとか、音楽との流れを無視して、やたら目に入るのは、自分のVJ名だったり。某カリスマDJなんかは「画面 見ているとね、俺の名前が流れているんだよ。あれ、本当に寒いよ。」と彼は言うんです。本当に音楽好きだったらかかっている曲、DJ名に何すると全く出されると見ている人は、興ざめだし、音楽を知っている人であればそこら辺のリズム感って分かると思うんですよ。音楽に関しても裏打ちが分からなかったりとか。まー、カラオケの手拍子であえて裏を打つ所から初めても良いと思うんです。シーケンスソフトを使ってでも良いし踊りでも良いでしょう。裏のずれた所で裏を取ってバランスを取る言うわびさびと同じですよね。まさしく音と映像の掛け合い。
  絶対リズムというのは、存在して、「ハウス」だとこういうリズムとい決めたがるけど流れているリズムに対してどういうリズムでも産み出せるじゃないですか。コンサートじゃないんで全部決め決めでやっているわけじゃないですね。ノリは、バンドセッションに近いですね。DJと戦うとかではなくて、両者の読み会いで、ちょうどポーカーでこいつは、ここで上げてくると、それ用に素材とかを用意しておいてうまくはまったり、まだ相手が引っ張ってきたりしたり。駆け引きの面 白さ。本当現場でのライブ感だと思うんですね。なんか今のVJ シーンは、DJシーンと同じですよね。似ている。

------ 猪蔵
 なるほど話しは、変わるのですが好きな音楽は。

------ MASARU
 何でも聞きますよ。音楽も細分化していますよね。ハッピーとか?ワープとか。なんでも自分が体験していないと駄 目なタイプなので、実際に自分が耳にして良いものであればなんでも聞きますね。

------ 猪蔵
 秋葉原とか好きですか?

------ MASARU
 住みたいですね(笑)。

------ 猪蔵
 僕の中では、秋葉系=テクノロジー、ロジック、渋谷系=ファッション、フィーリングというカテゴリがあってですね(笑)。この二つが融合している人ってなかなかいないんですよ。今の若いVJの子は、後者でテクノロジーに関して皆無であったり、また前者の子は、音楽を知らなかったりと…。

------ MASARU
 渋谷系というのは?

------ 猪蔵
 仮にですけど、若い子たちは、とりあえず場に出て、VJになりたいというのが先行していますよね。同年代の子達から見るとすごいかっこいいのかもしれないけど、僕から見るとなんかちぐはぐな感じを受けるんですね。それに対して、秋葉系というのは、映像を製作するのに堪能であったり技術のスキルが高かったりして、旧来の映像製作屋さんや展示会のスイッチャーさん。いわば職人です。氏の両方を持っているのというのは少ないですね。華やかさと縁の下の力持ちを両立している人はあまりいないはずですよ。ユニットが多いのもこの辺もあるだろうし。

------ MASARU
 なるほどね。これは、賛否両論なのですが自分のイベントのスタイルとして、裏方ではなくて、VJも一VJとしてブースを作ることにします。一歩下がって素材が、自分達の言いたいこととして表に出るものです。
  普通にやれば良いというのは、DJも一緒でそれを含めてのパフォーマンスも大きいと思うのですよ。ただ、映像やっているのに表に出ていってルミカライとで踊ったりとか、それは、違うと思うけど。もっと自分の見せ方とかは考えられますよね。自分のやりたいことを胸を張ってやれることはいいですね。つまり自分を持っていない人が多いんですね。
  最近の若い子たちで話をしていても最近一番きついのが、開口一番「ソフト何使っているんですか?」「マックですかウインドウーズですか?」なんですね。これは、僕にとって、ジャポニカ学習帖なのかコクヨのノート使っているのかぐらいの違いしかない。すべて完全なものはないから。良い所取りで良いんじゃないかと思っている。とにかく枠にはめて、話を始めるのが辛いですね。二言目には、自慢話になってしまいますから。「SGI使っていたんです。」とか‥と言われてもね。

------ 猪蔵
 最後に若い人たちになにか一言。

------ MASARU
 変に人と比べるとか、誰かと競争するのではなくて、自分と向き合うのが大切。映像よりも、音楽も聞きましょう。実は、VJすごく面 白いんです。これからもやりつづけますし、みんなもね。