第七回「たった四コマの映画」の巻

一般すぎるほどの一般人、人間最大公約数ことハギワラノリツグが一流のキャラクターデザイナーになるために、一年間という長い期間に渡って拘束される、ある意味サディスティックな、そしてどっかで聞いたことあるような企画です。
手元にあるのは「手塚治虫のマンガの描き方」という本、一冊のみ。
本を頼りに、手塚治虫に追いつけ追いこせ。
第二の手塚治虫を目指して、半分無理だと悟りながらもガンバります。
だからみんなもただ見てないで、ガンバレっつーの!

大人しく寝てると思いきや、
夢の中では・・・
気分は黒澤。
「雲」をよこせ、と
大暴れ。
ぱにっく

オレ、映画監督。
原作・脚本・演出すべてオレのスペクタクル超大作「雪だるま・プラネット」はクランクインして今日で2週間目になる。
「このシーンに必要な雲はこんな雲じゃねぇんだ」そう思ったオレはスタッフに怒鳴る。
「おーし! 雲待ちー!」
「え? 監督、曇って、もう日が暮れてますよ」
横にいた助監督が話しかけてくる。オレはキレる。
「あぁ!? だったら明日の朝まで待てばいいだろ!? オマエ、何年助監やってんだ!?」
「え・・えっと・・・7年です・・・」
「あっそ。オレ監督になって2週間目。ガハハハ」
「素人丸出しじゃないですか」
「うるせぇな。素人もクソもねぇよ。オレのほうが偉いのは事実なんだからよ。じゃぁ、オレもう帰るから。オマエここでカチンコ打つ練習しながら雲待ってろよ。じゃぁな」
「か、監督! ちょっと待ってくださいよ! 監督! 監督ー!」

・・・むくり。目が覚める。
DVDの観過ぎだな。観る映画観る映画、すべて自分が作ったような錯覚をおこしちまう。だからあんな夢をみるのだ。だいたいオレに映画なんて作れるわけがない。そんな才能があったら今頃カリスマになってるもの。大金持ちでキレイなおネェちゃんはべらかしてるはずだもの。

夢は夢でしかないんだもの・・・。

あ。ちょっと待てよ。
今の今まで一生懸命キャラクターデザインやってきたけど、これも夢でした、なんてことはねぇだろうな。本当のオレは実は意識しか残ってなくてさ。今現実と思っているオレもオレのバンドも周りの景色も全て架空のものだったりして。映画の『マトリックス』みたいに・・・。だいたいあのペン大王とかいうヤツも、普通実在するわけねぇだろ。先々月出てきたクマとかよ。
たった今、オレは夢から覚めたが、これは覚めた気がしてるだけで、まだ夢の中なのではないんだろうか? あの日あの時、ペン大王と渋谷の宮下公園で出会ったずっと以前から、オレは夢を見続けているんじゃないのか?
えー。ちょっと待ってよ。オレ、一体何者? ここはどこ? オレの意識は本当にオレのものなの? 全てが偽物だったとしたら、それは偽物という概念がなくなるわけで、同じように全てが存在しないということは、同時に全てが存在するとも言えるわけで、だとしたらオレは本物だし、ペン大王も本物だし、あのクマも本物だし、でも、全てが存在するということは同時に全てが存在しないとも言えるのかい?

パニック。もう何がなんだかわからない。
その時、玄関のドアが開く。ペン大王が入ってくる。
「イヤー。暑いな、オイ。気温28度だってよ。この調子だと12月には気温64度はいくな、こりゃ」
「オレは一体誰なんですか?」
「お、何だよ、唐突に。ノリツグだろ? オマエは」
「いえ。ワタクシはノリツグであってノリツグではないのです。同時にノリツグではないがノリツグでもあるわけです」
「何言ってんの? 顔色悪いよ。拾い食いでもしたのか?」
「拾い食いはしてません。イヤ、したのかもしれない。同時にしてないかもしれない」
「その言い回し、やめなさい。無い脳味噌無理に活用して哲学的なこと言わなくてもいいから。ワケわかんないこと言ってないで早くキャラクター作りなさいよ」
ペン大王は部屋を見回す。部屋中に積まれたDVDの山。
「ははぁ、なるほど。現実よりもフィクション見過ぎてイッちまったか。パニック症候群みたいなもんだな」
「映画の中の世界はフィクションですが、同時に我々の住む世界も同等なのかもしれません。全てはフィクションで同時にノンフィクションなのです」
「いいかげんにしろ。ひっぱたくぞ。あんまり引っ張ると読者がついてこなくなっちゃうからな。この辺で目を覚まさせてやるか。そもさん!」 「せ、せっぱ!」
「上は大水、下は大火事。コレなーんだ!?」
「うーん。お風呂」
「ブー!」
「え?」
「んなもんは、ねぇ!!!」
・・・。ガクリと膝を落とすオレ。勝ち誇った顔のペン大王。
「さ、さすがペン大王だ」
「これでわかったか。そんなことでウジウジ考え込んでるヒマはオマエにはないのだよ」
「でも・・・でも・・・オレ、いないんだもの。死にたいんだもの・・・」
「バカー!!!!」
オレの頬を平手打ちするペン大王。またもやオレは膝から崩れ落ちる。
「死にたいなんて言っちゃダメじゃない。今死にたくても明日には楽しいことが必ず待ってるの! 人はそのために生き続けるの!」
「い・・・痛てぇな、コノヤロウ!!」
ペン大王の頬を殴り返す。グーで。吹っ飛ぶペン大王。血みどろになりながらペン大王は言う。
「おかえり・・・ノリツグ・・・」