最近にわかに聞くようになったHD。「あの映画HDでとってるだって」とか「このプロモーションビデオってHD撮影なんだって」とかHDと言う言葉ばかり先行しているけど実際の所何がすごいのか?株式会社レイ/マックレイユニットの渡辺裕之氏と北須賀直己氏にHDを取り巻く現状と今後の可能性についてばっちり聞いてみた!

HDカメラ
SONY HDW-F900
現場で活躍中のF900
カラーコレクション等を
行うためのリモコン
撮ったものをその場で
確認できるモニター
モニターを見ながらカラー
コレクションの作業中
HDのテープベーカムと同じ
大きさで40分収録可能
福島博パビリオン全景
福島博イベント映像
MISSION #04 HD
HDの可能性


○HDの現状

―― 現在のHD(ハイビジョンカメラ)を取り巻く状況はどんなものですか?

渡辺 映画界でもCM界でも実際に見て、ちょっと触ってみて、じゃあ次に本当にHDは使えるものなのかどうか、みんな実感は持っているとは思うんです。けれど本当に自分が触ったとこがHDのパフォーマンスのすべてなのかどうか、HDっていうのはこれからどういうふうな発展のベクトルなのか、あるいはノウハウはどういうものを持っているのかみたいなことというのは、ただ一回仕事しただけではなかなかわからないところもあります。出た当初ハイスピードができないとか、いろいろ課題のことは言われたことがあるんだけど、それが今はカメラの性能+編集でできるようになって来ているんです。

北須賀 これまでの1年半、24pフォーマットの、F900っていう新しいHDのカメラが出てきて、BSデジタルなども去年の暮れに開局して、HDっていうのは改めて問われているところだと思うんです。

―― なるほど。

渡辺 あるいはフィルムルック(HDで撮った映像をフィルムっぽい質感にすること)の問題にしても、単に今までの画質比較だけではなくて、中身的なところで対応ができますみたいなことは、やっぱり私達もかなりノウハウは積み重ねてきているんで。化粧品メーカーのCMで、やっぱりフェイストーンのところって、今までフィルムやる人たちは「やっぱり化粧品はフィルム」っていう言い方があったんですけど、そういう化粧品の素材がHDでできるんだったら、もうたいていのものはできるはずなんです。

―― 今までは普通のフィルムを使っていたりとかビデオカメラを使ったりしていたんですけど、それが今度HDになって、どれぐらいの進化を遂げているのですか?

北須賀 機材のバージョンアップという以上にノウハウ的なところが大きいんです。ベーカムとHDとフィルムと三つの比較をするとすれば、まず一番言われるのが、肌の質感だとかなんです。ビデオだと画素数的にも720×486しかなくて、その中でレベルがある程度明るいとか、ある程度暗い、というのは情報としてないんです。ところがフィルムの場合にはそれらのすべての情報が入っていて、それをあとの編集の段階で好きなように引き出すことができるというのもあって、皆さんやっぱりフィルムを使われていたんです。ですが、こんどはHDになるとその分画素数が増えるだけではなく、そういった情報量も増えていますし、現場で自由に「ここの色をもっと赤く」とか、コントロールが今まで以上のクオリティでできるようになったんです。

渡辺 その上、今われわれはよくCMで使ってるのは30pマスプログレッシブっていう、今までのテレビとはまた違う走査線の描き方の方式なんです、それはどちらかというとテレビよりフィルムに描くときの方式に近いんです。なので被写体が動いていたりすると、その動きの撮れ方はなんかフィルムっぽいんです。普通のビデオで撮るのよりもはなめらかさはないんですけれど、その辺がHDの味みたいなもです。

―― それはHDカメラがフィルムカメラに追い付いたということですか?

渡辺 機能的に追いついたと言うよりも使うほうのノウハウの部分ですね。HDエンジニアとか、現場によってはHDトータルのテクニカルコーディネーターといった状態で入ったりとかしているんです。今までだと編集のことを考えずに撮影は撮影主体で行って、編集はあとで何とかなるだろうぐらいの撮り方だったのが、編集はこうだからじゃあ撮影の段階でこうしておいた方がいいですよとか、あとは編集でこういう効果をつけられるんで、撮影でもこうやっておこうかっていう、いわば両方トータルに見た編集、撮影の現場のハンドリングをしたりとか、あとは使われている方がみなさんフィルム出身の方たちが多いので、使い勝手的にはフィルムカメラというよりもビデオカメラに近いので、その辺もフォローさせていただいて、HDカメラの機能を最大限に引き出してもらえるよう現場に入っているんです。

―― 監督の方と編集の方とをつなげる架け橋みたいなものでしょうか。

渡辺 そうですね。私達はもともとポスプロですから、編集をするわけなんですが、ブルーバックのヴァーチャルスタジオや、DVDのオーサリングチームや、CGチームがあったりとか、そういう映像作品の入り口的なところもあるので、もちろん企画あってのことですけど、撮影もうちでやればその仕上げもちゃんとインフェルノなどを使って編集、合成し、あとMAもして完成までできます。カットによって撮影でどこまで時間をかけるか、編集でどこまで時間がかかるか、時間とエフェクトとのバランスを監督とカメラマンと3人で話ながら撮影していった方法が一番うまく行くと思ってます。

―― そういったコラボレーションの具体例はありますか?

北須賀 例えば、福島博の際には、編集とCGと合成とかはすべて当社のビジュアル・スーパーバイザーが仕切ってまして、撮影はHDチームがやりました、撮影の段階でこういう撮り方をしているからCGもこういうふうにつくっておいてねとか、逆にCGがこうだから撮影のときもこうやっておかないとねっていうのが事前にノウハウとしても手順としても出てきます。福島博の場合、最終的な上映までうちの別のユニットで、DLPというデジタルプロジェクターを使って3面のスクリーンにパフォーマンス込みでやったりしたので、もちろんいろいろな外部の方と連携していますけど、各セクションで参加させて頂きました。

○HDでできること

―― 先ほどカメラ自体は進化してないとおっしゃっていたんですが。

渡辺 要するにそれは非常にノウハウ的なものなんです。カメラはソニー製で型番が新しくなっているというわけではないんです。たとえばハイスピードができるようになったと先ほど申しましたけど、カメラ自体回している限りは今の所できないんです、現在そのソニー製のでは。ただ、あるソフトを使って編集と一体化することによって、ほぼ2.5倍ぐらいまでの可変スピードができるんですよ。単純にフィルムだとフィルムを速く走らせることができるんですけど、ビデオだとやっぱり機械というかコンピュータなんです。だから編集とあわせての両方のノウハウがないとその辺が難しいわけです。

―― なにかノウハウの具体例はありますか?

渡辺 もちろん今の可変スピードもそうですし、さっき言ったようにHDって言ったってビデオ的なところも残ってますし、パフォーマンスはフィルムカメラに非常に近づいていると思います。完全なフイルムルックにしたいならフィルムを選べばいいわけで、HDで撮影するならもちろんHDルックになるんですけど、フィルムルックっていう選択もできるんです。さらに、現場でいろいろ色もいじれるし、今までのビデオやフィルムカメラではできなかったことができるんです。、だからいわゆるVの撮影のときにビデオエンジニアさんがいますけれど、ぼくらも同じようにHDならばエンジニアがいるんです、カメラマンといろいろコミュニケーションして、フィルムカメラでできるようなこともできるんです。その辺の色のガンマをさわってみたりとかというようなことが非常にやりやすくなっています。

―― 簡単にフィルムにできなくてHDでできるすぐれた点みたいなことをいくつか、主なことはあります?

北須賀 HDの場合、画カクが16:9なので、映画でいえばビスタビジョンサイズになりますし、解像度は1125本ですので、通常のNTSCのほぼ6倍のデータ量を持っています。あとフィルムですとロールチェンジしますよね。回せても十何分もないんですけど、HDだと小さなテープに40分入るわけですよ。たとえば現場で役者の方とかがテンション上げていって、盛り上がってきたところでロールチェンジみたいなのは減りますので現場のスムーズさが増します。動物や子供の表情狙いで長く回したい時や、日の出日の入りなど、チャンスを逃す心配もないですし。フィルムのようなパラ消しの作業はHDにはありませんしね。

―― 小さいんですか?

北須賀 カメラの大きさはそうでもないんですけど、やっぱりもともとがいわゆるビデオカメラから進化したものなんで、ひとりで自分で行って回そうと思えばできますし、いろいろなスタイルでの撮影の仕方ができます。フィルムだとやっぱりカメラマンがいて助手の人がいて、照明をちゃんと当ててとかあるんです。あとフィルムって結局ビジコンとかがあるから見れなくはないんですがHDだとちゃんとHDモニターが現場に入りますから、オーディションやカメラテストのときとかでも完成に近いものがその場で見れるわけです。

―― 先ほど言っていたカラーコレクションみたいなやつは、カメラ的にやるんですか。

渡辺 とりあえず照明とかとはまったく別で、カメラのファインダーの中とかにいろいろメニューが出てくるんで、そういうメニューの中のもののパラメータを調整して色を変えるんです。そのため現場には、A4サイズくらいの専用コントローラーを持っていってるんです。

―― すごいですね。

渡辺 だからモニターで完成形を見たら、もうほとんど完成形だから、クライアントもちゃんと言える。でもカメラマンにしてみれば、今まで自分の独占だったところですからね(笑)。正直どう思われているか分からない時もあります。

―― 文句言うな、みたいなことはあるんですか?

渡辺 それはそれで不満を述べられる方も中にはいらっしゃいますけど(笑)。ただ監督さんからすれば、逆に自分のイメージがすぐ見えるんで、編集のときにじゃあこうしようかっていうのも、事前に全部段どれるからすごい楽だっていう話はあります。

○HDの可能性

―― ルーカスが撮っているのがHDですよね。

北須賀 「エピソード2」はもうこれだって、全部HDで撮ってるとも言ってますからね。

―― 考えてみれば彼はプロデューサーじゃないですか。そうするとフィルムの現像代とかフィルムを何本撮るというのを考えると、すごくお得ですよね。

北須賀 さらに撮影したものに合成とかデジタル処理するわけですよね。そういう場合はものすごく相性がいいわけです。フィルムで現像してまたそれをデジタル処理するよりは、そのまま直接できるんです。やっぱりプログレッシブな分、すごくきれいなんですよ。合成させるときは1フレ1フレで基本的に合成させますね。ところが1フレの中にフィールドというか、要はインタレスだとふたつの絵だとちょっとブレコマみたいなのがあるんです。1フレの中でも動いているものっていうのがあるんですけど、プログレッシブの場合はそういうものがなく動きのない静止画として合成できるんで、すべてのフレームに対してブレコマがなくてきれいに合成がしやすいという利点もあって、特にCGとの合成はすごく相性がいいです。しかもプログレッシブだということで、そのままCGにデータとして渡しやすいんですよ。

―― そういう形になってきて、今後HDの可能性は無限だとは思うんですけど。

渡辺 一番緊急の課題は、やっぱりさっき言った可変スピードですよね。それがフィルムの人たちからフィルムは1秒1000コマでもできるんだぞって言われたら、うーん、まだVはそこまでできないからな、っていう話にはなっていきますけれど(笑)、でもそれは1秒1000コマは無理だと思うんですけど、HDのままで近々対応できるというようには聞いていますから。さっき言ったように、プロダクションと一体になってクオリティーの高い可変スピードにも一応対応できるようになっていくと思います。

―― 今CMで、映画でHDがはやっていますけど、今後テレビはどうなるんですか。

北須賀 それはBSデジタル放送ですね。BSだと放送されているもの自体がHDのサイズの画素数の多いものなんです。だからそれで撮ってそのクオリティのままオンエアできますので、そういうところで番組もちらほらでてきていますね。

―― HDで撮って地上波で普通に流すという方向にもシフトしていくんでしょうか?

北須賀 今はテレビ局がみんなそれで撮ってるっていうのは、先々のことを見越してのことで、いわゆるHDで(F-900)ユニバーサルマスターという言い方をしているんですけれども、それさえ原版で持っておけばそれこそ映画館でやるにしても、または交通広告なんかで外でやるにしても、あるいはそこからキャプチャーして印刷物にすることも可能ですし、DVDにもできる。しかも放送のときは放送用にコンバートすればいいわけですから、マスターは一つだけっていうのはありますよね。

―― 今はHDカメラはいろいろなテレビ局とかで持っているものなんですか。

北須賀 プログレッシブのカメラはまだほとんどないですね。局で持っているというのは、まだ恐らくどこにもないんじゃないですか。ただインタレスのHDのカメラっていうのはもう大半の局が持っていますね。

―― それは先ほどおっしゃった60i?

北須賀 そうですね。

―― 60フレーム撮れるんですか。

北須賀 いや、奇数で30フレーム、次の偶数で30フレームで合わせて60で、ただ2フィールド使っているからそれをひとつにすると30プログレッシブっていうことなんです。インタレースっていうのは飛び越し走査っていって奇数と遇数に分けていますから、ただそれは2フィールドになっちゃっているんで、1フレの中にもフィールドがふたつあって、その中にも動きがあって、その分動きがなめらかですけどね。ちらついて生っぽく見えるので60iはいやだっていう話をフィルムの人たちがよく言います。

―― きっと「水戸黄門」みたいなものですよね(笑)。

北須賀 そうそう。あれがそうなんです。むかしはフィルムだったのがね。あれもインターレスで撮影するようになっちゃって・・・あの差ですよね。

―― たしかにあれを見たときは、これは「水戸黄門」じゃないだろうって(笑)。

渡辺 フィルムってやっぱり見たままじゃなくて、フィルムで撮っただけでフィクションの世界観を持ってるんですよね。ビデオってどうしても生ですからつくりものっていうことになると、やっぱりあの世界観を尊重する人がいて、ビデオってなかなかその世界観がやりにくかったのが、HDだと本当にすぐさまできるんです。

―― HDっていうのはその中間で、きれいなんだけど上に一枚ひいたみたいに、クリスプにトーンがおさまったみたいな感じの絵ができるということでしょうか。

渡辺 そうですね。だからどっちにでもできるんですよ。フィルムに近づこうと思えばフィルムに、ビデオに近づこうと思えばビデオ的に。きれいなのにもいろいろあって、昔で言うハイビジョンで映すと画質はきれいなんだけど、機材的には中継車が必要だとか、太いケーブルがいくつも必要だったりと大変だったのが今は全然小さくなりました。だからフィルムでもなくビデオでもない新しいメディアだという方向で私たちは考えているんです。

―― CM・映画・テレビときたらあとはイベント関係でしょうか?

渡辺 そうですね。やっぱりイベント用の大型映像には強いです。ある監督が大スクリーンで投影したときのクオリティにはびっくりしたっておっしゃっていたぐらいですので、やっぱり大型映像にも強いというのはありますよね。

―― HDで撮ったものを映写する場合は、フィルムに焼かない場合はDLPで流すんですか?

渡辺 そういうことです。

―― DLPはすごいですね。「トイストーリー2」を見ましたけど、すごいきれいでした。

北須賀 そうですね。たとえばとあるDLPの試写室でスクリーンテストをやるじゃないですか。するとパソコンの画面と同じなんです。結構カルチャーショックですよ、こんな大スクリーンで?、っていう感じで。あとは、フィルムって経年変化が激しいじゃないですか、使えば使うほど傷がついたりとか雨が降ったりとか。HDは基本的にそれはないですからね。

―― 最後に今後HDを活用してやってみたいものってありますか。

渡辺 フィルムでやれることは全部チャレンジしてみたい。「フィルムでこれできるんだけど、HDはできないんでしょ」って言われたくないんです。あとは先ほどの福島博もそうですけど、入り口から出口までイヴェント的に現場でパフォーマンスしたり花火上げたりとかいうところまでやっていきたいですね。私たちは全部一貫してできますから、あとはいろんなタイプの作品をやってみたいということですね。もう画質とかクオリティのパフォーマンスをアピールするというステージは終ったと思います。最終的にはフィルムルックではなくHDルックという方向性というのを確立させて、その方向でこのHDのテイストが好きなんだよね、っていう人がもっと出てくるような、そういう方向に行ってほしいですね。




何気なく見ている映画やテレビの映像にも私達の知らないところでハイエンドの波が押し寄せているんですねー。近未来映像界の要となりそうな気配たっぷりのHD、今後も映像関係者やクリエイターたちは目がはなせなさそうです。ぼやぼやしてると置いてかれるぞー!
さて、さて、のぞきみ隊は更なる刺激を求めて次の獲物を物色中。ハイエンドよー、かっかてこい!カモーン!!