映画製作が覗ける映画のシナリオ

 このたびRay Creators Labを始めるにあたり、サイト運営者とのつながりや私のこれまでの経歴から、いわば「兼山錦二の映画の部屋」とでもいうべきコーナーを設けようとの相談があったのだが、私としては業界解説のたぐいを何度も試みるより、もう少し建設的な、できればクリエイティブな物語をつむぎだすことによって、この世界の住人をもっと深いところから描きたいと思った。したがって第1回はその企画書(見取り図)めいたものを公開し、以後はシナリオの体裁にそって(とはいえ、かなり特異なかたちとなるかもしれない)私からみた映画の裏側をつづっていくことになる。あまりこむずかしく考える必要はないのだが、冒頭に私自身とフェリーニの著作から抜き出した文章を掲載しておきたい。

 映画は多くの視線にさらされている。それを最も痛感するのは、やはり劇場という暗闇のなかに見ず知らずの無数の観客がいてくれることだろう。だれにとってもひとまずは単純明瞭な事実なのだが、意外なことに現実と向き合うのはなかなか困難であるようだ。業界の内部で思いを遂げようとしても一般の眼差しとはすれ違いやすく、たとえその外部からであれ思いを募らせていくと普通の視線とはほど遠いものになってしまう。見ることと見られることの関係は思いのほか厄介で、えてして考えることとはレベルが違っている。

兼山錦二 『映画界に進路を取れ』


 映画をことばで言い表すことはできない。もし語るとするなら、それは映画自体とはなんの関係もない別の具体化となる。

フェデリコ・フェリーニ 『私は映画だ』


企画案

TITLE: それぞれのすべて
THEME: 何が映画界に起ったか?あるいは
映画人の行き先はどこ?
CONCEPT: 1. 監督が監督としてある所以
2. 俳優が俳優としてある由縁
3. そこでうごめいている人間
4. それぞれの情熱と愛の拠点
5. 周囲を取り巻く様々な視線
6. それに関わる経済的な側面
7. 東京国際映画祭という事件
8. 我をも忘れたいつかの記念
CONTENTS: 自伝風の映画を企てようとする監督に、しつこく批評家がつきまとう。映画が企画されてから完成するまでをレポートするという。監督はこれまでの浮名を清算し、プロデューサーを務める女性と身をかためるつもりだった。映画の作り方、在り方を語りながら同時にそれ自体がドラマとなるとき、まわりの人々が事件にさらされる。虚構にかけた映画監督の換骨奪胎をなぞる物語とは…。

第 I 部 Pre-Production(撮影前)
1 企画
2 資金集め
3 改訂稿
4 ブレイクダウン
5 キャスティング
6 配給交渉
7 ロケハン
8 スタッフ編成
9 美術打合せ
10 決定稿
11 オーディション
12 製作発表
13 タイアップ
14 衣裳合わせ
15 キャメラテスト
16 クランクイン

第 II 部 Post-production (撮影後)
1 ラッシュ
2 編集
3 アフレコ
4 オプチカル
5 ダビング
6 現像
7 打ち上げ
8 試写会

SUPPLEMENT: 第 III 部 Principal-Photography (撮影中)
映画監督を主人公にした映画を撮りながら、人間関係をめぐるある事件が起こる。その前後を描くうち、監督、プロデューサー、それを演じる俳優たちとの関係がねじれ、劇中劇とからみ、錯綜を重ねていく。いったい事件とは何か。虚構にまみれた映画そのものの換骨奪胎をなぞる仕掛けとは… 。

●10月9日
○スタジオ
○特撮工房
○ラッシュ
○撮影所内食堂
○控室
○ブルーバック
○ロケバス
○ロケセット
●10月10日
○(彼女の死体)
○(ジョギング)
○(ドライブ)
○(地震)
○(干潟)
○(海底トンネル)
○(用水路)
○(バー)
○(彼女の出産)

●故郷の風景
○友人の証言(1)
○ 〃 (2)
○ 〃 (3)
○ 〃 (4)
○ 〃 (5)

○義兄の記録(1)
○ 〃 (2)


1 (彼女の死体)
2 スタジオ
3 (ジョギング)
4 友人の証言(1)
5 特撮工房
6 (ドライブ)
7 友人の証言(2)
8 ラッシュ
9 (地震)
10 友人の証言(3)
11 撮影所内食堂
12 (干潟)
13 友人の証言(4)
14 控室
15 (海底トンネル)
16 友人の証言(5)
17 ブルーバック
18 (用水路)
19 義兄の記録(1)
20 ロケバス
21 (バー)
22 義兄の記録(2)
23 ロケセット
24 (彼女の出産)


CHARACTER: 第 I 部&第 II 部
映画監督  円城寺 満 (42)
プロデューサー  津村 美沙 (40)
主演男優  須田 明 (31)
主演女優  山下 響子 (34)
新進女優  日比野 まり (23)
脚本家  佐久間 隆 (39)
キャメラマン  柏崎 次郎 (45)
美術  貝塚 俊彦  (44)
助監督  野々村 保 (29)
ライン・プロデューサー  宮部 幹夫 (37)
配給担当者  橋爪 祐輔   (36)
映画評論家  阿仁屋 優 (42)

第 III 部
映画監督役 (40)  須田 明
プロデューサー役 (31)  山下 響子
主演男優役 (32)  鷲尾 勇
主演女優役 (28)  不破 令菜
元恋人役 (24)  日比野 まり
監督の友人役 (40)  奥間 常文
監督の義兄役 (59)  レニー・モズレー