またひとつマンガが原作の映画が公開された。タイトルは『修羅雪姫』。
原作者は『子連れ狼』などで知られる映画化率の最も高い日本マンガ界の大巨匠、小池一夫。バリバリの時代劇、お色気たっぷりのこの原作を、釈由美子主演のSFアクションに生まれ変えたのは、日本映画界大注目の若手監督、佐藤信介。自ら書いた脚本で原作を大きくアレンジし、いままでにみたことのない「刀」が主役の本格SFアクション映画を作り上げた佐藤監督に、マンガを原作とした映画作りについてみっちりたっぷりインタビュー。  









修羅雪姫オフィシャルHP
www.shurayuki.com


主演:伊藤英明
       釈由美子

監督:佐藤信介

テアトル新宿にて
絶賛公開中!








―― まず小池一夫氏の原作「修羅雪姫」をいま映画にするといった話はどこから?

佐藤: もともと、プロデューサーの一瀬隆重氏と原作者の小池一夫先生が「クライングフリーマン」という映画を作った後に話があったようで。小池先生が、映画化を打診されたと聞いています。こんな話をしゃべっていいのか分からないけど(笑)・・・その際、死ぬ前にもう一度舞台挨拶に立ちたいともおっしゃったとか。二、三年前くらいだと思うんですが、それで、「修羅雪姫」を原作にするのはどうだろうかということに。

―― はじめにマンガの「修羅雪姫」を読んだときはどういう印象でしたか?

佐藤: 僕がこの企画に参加する前に、すでに原作をベースにした脚本とシノプシスがありました。そこに僕が入り、アレンジしていくという作業過程だったんですが……脚本に着手した段階では、僕は原作を読んでないんです、実は(笑)。はじめ、原作にとらわれずにやりたいという、プロデューサーの指針があって。僕が入る前の原作をベースにした脚本やシノプシスは、原作を煮込んでドロドロになった最後の一杯みたいな感じのもので、原作のエッセンスはそこに入っていました。「原作がこうだからこうしなきゃならない」というようなある種の束縛から、自由な新しい気分を吹き込みたいという意図もあったと思うのですが、一度、真っ白な頭でこのシノプシスを元にしつつ、僕と国井さん(脚本)で、アレンジして行こうという感じで作業が始まりました。原作や、この原作を元にした映画のことも含めて、作業が進んでいく段階で情報を入れていったという感じです。一風変わった作業でしたが、有効な点も大いにありました。

―― はじめに「修羅雪姫」原作で映画を撮ると聞いたのは?

佐藤: ちょうど一年前、前作『LOVE SONG』編集中に「監督、ちょっと」ってプロデューサーに呼ばれて編集室の脇の部屋に連れて行かれ、「アクションものに興味あるかな」みたいな話になって。ぼくはアクションもすごくやりたいって、その前からずっと言ってたんです。刀でアクションをやりたいんだけど、時代劇にしないでSFにした方がいいとかあるいは現代モノでやった方がいいとか、そんな事を息まいて話してて。だから、「アクションやらない?」と言われても、そんなに驚きませんでした。「もちろん何度も言うようにやりたいです」と、お返事しました。

―― 結果的に佐藤監督がやりたかったSF“刀”アクションという企画と「修羅雪姫」という原作モノの企画が合体して今回の映画ができたというわけなんですね。

佐藤: そうです。「修羅雪姫」を今やるというのは、原作を焼き直すか、あるいはあれを今忠実にやってみるかのどっちかの選択しかないと思うんです。始めにいただいたシノプシスを読んだときは、もうすでに時代劇ではなかったんですよ。「マッドマックス」みたいなちょっと西洋風なSFになっていて、西洋人がいっぱい出てくるような感じで、もう原作の時代劇は跡形もなくなっていました。僕が監督することになってから、それを和風SFの方向に動かしました。設定は同じく近未来的異世界だけど、西洋風じゃなく、日本的・アジア的な雰囲気にこだわった、あるいは、剣(つるぎ)ではなく、あくまでも日本刀にこだわったアジア的なSFアクションにしたんです。最初、衣装案で民族衣装みたいなアイデアスケッチも出ていたのですが、全部却下しまして。とにかく紋付き袴的なフリフリ感は廃止。パンツルックでなくてはならないと。日本刀アクションを現代モノやSFでやりたかった理由の一つに、日本刀を時代劇から開放したかったという思いがあるんです。その一つの段階として、紋付き袴的な衣装から刀アクションを開放したいと思ったんです。たとえばジーンズを履いて日本刀を振り回しているというようなイメージを定着させたかった訳です。たとえば、拳銃があるのに未だに古武術で闘う香港アクションが映画的に自然な風景として見えるように、拳銃に対して刀で闘っていてもナチュラルに見えるようにしたいと。

―― ところで、今回は小池一夫さんの意見みたいなものは?

佐藤: はじめにプロデューサーが映画化の許諾をとる際に、とにかく原作を抜本的に変えたいと小池先生にお話しされたみたいです。映画完成後、小池先生は本作をご覧になって、大変気に入られたという話を聞きました。

―― 「修羅雪姫」のストーリーを聞いて、映画化できると思いました?

佐藤: 色々大変だろうなとは思いました。シナリオ書きながら「ほんとにできるのかなぁ」と。ま、何とかなるでしょ、と楽観的でもありましたが。でも釈さんにはこの物語は似合っていると思いました。この硬質な感じが、あの釈由美子にぴったりだと思ったのは僕やプロデューサーだけじゃないでしょう、たぶん……。物語自体は、基本的に面白い話だと思いました。お母さんの仇を討つんだけど、実際には主人公・雪はお母さんが殺されている姿をちゃんと覚えているわけではない。にもかかわらず、その仇をとろうという話じゃないですか。普通だったら、くやしいから仇を討つのが筋ですけど、この話はそれがない。体験なき記憶が血の中に溶け込んでいる。この、「戦わざるを得ない」宿命を背負っているという話の流れが、とても独特だなと思いました。普通の復讐劇ではなくて、そこがポイントになるだろうなと。

―― 映画化するうえで、気にしたことは?

佐藤: 色々ありますが……一つは題名です。とにかく物語自体を“修羅雪姫”にしたかったんです。つまり、名は体を現す、というような物語に。修羅……、善と悪が闘うのだけど、善にも悪の要素があり、悪にも単純に悪だと言い切れない部分もある。お互い避けがたい宿命の中で、闘わざるを得なくなっている状態……、僕は修羅という言葉にそんな状態をイメージしました。これを物語の核に据えたかった。それから姫……、この点も原作にも僕が最初にもらったシノプシスにも無かった部分ですが、雪の設定を姫にしたかったんです。イメージじゃなくて、実際に。で、隠された歴史とか、滅びつつある血統とか、そういう過去の歴史的な部分を作りました。暗殺集団の純潔の血を継いだ最後の末裔が彼女しかいなくて、自分がその姫であることを教えられる。この組織は滅亡の一途をたどっていて、今は滅びないよう結束を固めているんだけど、これはやっぱり終らせなければいけないといと、雪の母は考えていた。が、殺されてしまう。雪が二十歳になるとき、自分の母を殺した長に復讐し、雪姫として集団を納めるか、集団を捨てて一族を抜けるか、二つに一つの決断を迫られる……また、その決断を迫ることが、母の遺言であり、その遺言を伝えるために、一人の男が生きながらえていた……という、これらの話は、みな、この題名から紐解いて、考えた部分です。

―― 原作の内容にこだわるというより、タイトルやキャラクター設定にこだわったんですね。

佐藤: 「お母さんの仇を討ちました」だけでは「修羅雪姫」にならないんじゃないかなという気がして。僕がこの物語を再映画化するにあたって、やはりこのインパクトのある題名にふさわしい物語をもう一度考えたいと思ったんです。だから「雪」の過去の話を丹念につくっていきました。

―― 今はマンガの映画化がすごく流行っていますよね。その傾向はどう思いますか。何で多いんでしょうか。

佐藤: 絵で描いてあるわけですからイメージしやすいし、小説より全体的に売れてるので、映画化が多くなっても当然でしょうね。プロデューサーがターゲットとしている人たちがよく読んでいる、ということもあるでしょう。マンガはなにせ日本の得意分野ですので、映画化が増えることはいいことだと思います。ただ、ハリウッドなら『アキラ』もアニメ化せず、実写化するんだろうなと思ってしまいます。ハリウッドには資本力もさることながら、きちんと実写化できる底力や技術力をやっぱり感じますよね。つまり、概ね納得できる作品には仕上げられる。資本力の差だけじゃないと思います。お金があればじゃあできるのか、というと、やはりセンスや慣れと言った部分はお金で買えませんから。

―― 小説とマンガを原作として脚本にするのだったら差があるんですか。たとえば自分で脚本を書く上で想定すると。

佐藤: マンガがあるとやりにくいでしょうね。あらかじめ絵があるわけですから、それにとらわれてしまうでしょうし。ガラッと変えるか、完全にマンガを参考にして絵づらから雰囲気までを似せていくか、最初に方針を固めないと。漫然とはとりくめませんよね。

―― 映画化したいマンガはありますか。

佐藤: 「スーパー99」。知ってますか? 松本零士の初期のマンガで、なぜか潜水艦が主力戦力の海洋ロマン。上下二巻で。あれは実写でやりたい(笑)。

―― なぜ「スーパー99」を映画化したいんですか?

佐藤: あの統一された世界観が好きなんです。あるヒトラーみたいな男が企てる独立国家の野望が正義によって打ち砕かれていく。正義が勝ってるのに、悲劇的で。そしてあの潜水艦がとにかくかっこいい。ぜひシリーズでプラモデルを出して欲しい(笑)。せっかくマンガをやるっていうことだったら、「あれをやったんだ!」みたいな驚きのあるものをやりたいなと思いますよね。今度サム・ライミ監督の「スパイダーマン」が来るじゃないですか。凄く楽しみで、あぁゆうのをやりたい(笑)。

――ダイナミックな世界を描いているようなマンガを、さらにダイナミックに映画でやりたいということですね。

佐藤: やりたいですねぇ。