今回話を聞かせてくれたのは単にキャラクターを作るだけじゃなく、作ったキャラクターに命を吹き込むアニメーションまでやってしまうという、「ニャッキ」でおなじみのアニメーションディレクター伊藤有壱さんだー。

------ ペン大王
ズバリ、お聞きします。伊藤さんにとってキャラクターとは?

------ 伊藤
ぼくにとっては、この世にあるものすべてがキャラクターなんですよ。カナダのルネ・ジョドアンという人のつくった「三角形のワルツ」っていうアニメーションがあって、それは三角形の赤・青・黄のただの記号が黒バックでワルツに合わせて踊るだけなんですけど、観てて、もう気が遠くなるぐらいかわいいんです。

------ ペン大王
は、ただの三角形が?気が遠くなるほどかわいい?!

------ 伊藤
ええ、それは三角形がキャラクターだったわけで、人のしぐさをするわけではなくて、ただ延々と三角形がワルツを踊るだけなんですけどね。ぼくらはアニメーションをやるとき魂を吹き込むわけで、それが宿ったときにすべてがキャラクターになる。そういう意味では映像っていう空間はクリエーターが神様で、すべてが思うようになりますよね。

------ ペン大王
じゃあ「ニャッキ」をつくった時は、アニメーションをつくるぞっていうのが先だったんですか、それともこのキャラクターを動かしたいというふうに、キャラクターがはじめに出てきたものですか。

------ 伊藤
あえて言えば前者のアニメーションをつくるぞっていう方。ニャッキは、実は動かないとかわいくないんですよ。もう6年放映されて、観てる人に基礎知識みたいなものがあるからキャラクターを「いいじゃん」って言ってくれるんですけど、最初のころなんかはひどいもので「気持ち悪い」とかよく言われて。プロデューサーには「これは動かないとかわいくないよね」ってはっきり言われたんです。

------ ペン大王
ありゃま。それは、ちょっと傷つきますよね・・・。

------ 伊藤
ぼくは実はそれはうれしくて、動くことでかわいさが出てくるというのは、それこそ自分のやりたかったことだし、映像である意味があるから。

------ ペン大王
ほほぉ。

------ 伊藤
時間軸とかそこに魂みたいなのを入れるということにすごく意味があって、棒きれ一本のキャラクターに自分なりにすごく素直に入っていけたんです。その上でさわっていくうちに、キャラクターの性格とかしぐさとかがどんどん自然に出てくるんです。だからキャラクターがいてそれを愛するというのではなくて、ある部分でグニャっとひねってつくっていったら、接していくうちに本当にキャラクターがひとりでに育つんです。

------ ペン大王
へぇー。前に安野モヨコさんにインタビューした時も同じこと聞きました!キャラクターがひとりでに育っていくって、本当にあるんですねえ!

------ 伊藤
あまり余計な方向に育ってとうとう暴れ出すと、ぼくの方は待ったをかけたり、逆にいい子ちゃんにしているとつまらないからつぶしたりとか、いろいろするんです。ぼくの中ではもうニャッキにはそれなりにキャラクター力もあるから、あまり全幅の信頼を寄せずに適度な緊張感を保ちながら、おまえいつ暴走するんだよ、みたいなところで今撮影に臨んでいるところがあるんですけれど(笑)。

------ ペン大王
うわぁ、おもしろいなぁ。キャラクターを頭の中でつくっていくという時期が過ぎると、次は一緒に成長していくっていう過程にうつるんですね。

------ 伊藤
そうですね。人間として見るか、人間じゃないものとして見るかでかなり違ってくると思います。たとえば自分のマッキントッシュに名前をつけたりとかしますよね、「今日は機嫌が悪いな」とか話しかけたりね。ぼくはぼくで、ニャッキは虫なんだけれど、どこからかがぼくなんです。

------ ペン大王
ふむむ・・。

やわらかで丁寧な
口調の伊藤さん
------ 伊藤
だからニャッキも虫なんだけど、たまに人間の性格をプッと入れちゃうんです。そうすると本当に愛くるしいものになっちゃう。でもあるときにそれをフッと抜くんです。そうするとまた脳みそが空っぽの虫に戻って。空腹か寝るか危険回避か、そのぐらいしか虫の脳みその中には入ってないし、それすらも気がつかないただの粘土のかたまりで。あまりそういうものを込めずにあせってアニメーションにすると、物になっちゃうんです。動いているのに物なんです。

------ ペン大王
キャラクターに「魂」を込めてるって感じなんだなぁ。

------ 伊藤
そうなんです。ぼくにとってのキャラクターとしてのキーワードというのは、キャラクター+ 動きなんです。それがワンセットになったものがぼくの中では非常に素直にキャラクターとして認められるわけなんですよ。

------ ペン大王
伊藤さんはニャッキの他にもCM等アニメーションのお仕事をたくさんやられてますよね。例えばロドニー・グリーンプラットのキャラクターを使ったファミリーマートのCMとか。そういうのって自分のつくったキャラクターを動かすのとは、思い入れが違うものですか。

------ 伊藤
ある意味ですごく違うんです。ぼくの場合はかえって自分のものを動かす方が困っちゃうんです。人のものを動かす方が、抵抗なくできる。

------ ペン大王
じゃー、キャラクターそのものに思い入れがあるというより、動きの方に重点をおくほうがやりやすいということでしょうか?

------ 伊藤
映像をつくるのはやっぱり技術だと思うんです。それはすごくいい意味での技術だと思うんですよ。結局キャラクターというのは一枚絵でもあるけど、動いたらもっと楽しい。その動くということ、キャラクターの力にアニマというか魂みたいなもを吹き込むのがぼくのやっている仕事なんです。人形をつくったり絵で描いたりコミックにするのとは別 の切り口から、キャラクターをつくり上げている職人だと思うんですよ。

------ ペン大王
ほー、こりゃまた、深い話だぁ。じゃ、キャラクターをつくった作家さんと伊藤さんのイメージのすり合わせは、どんな風にしてますか?

------ 伊藤
力のあるクリエーターが描いた絵は、絵そのものがキャラクターや何をしたいというのを全部発しているんで、あまり言葉を多く語る必要がないんです。ぼくが直感でこのキャラクターだったら…というイメージが、話しながら見ながらがわっとふくらむんです。

------ ペン大王
アニメーションの動きって、どんなことで勉強してるんですか?

------ 伊藤
たとえばファミリーマートのCMなんかは、ロドニーの絵のイメージからぼくが反芻して返してっていうことをやっているんで、そうやって見たときにパッと提案できるっていうのは、小さいころにマンガを観たおかげですね。

------ ペン大王
へぇー、マンガですか。どんなマンガをみてたんですか?

------ 伊藤
「ルパン三世」とかも夢中で観たし、マンガだけじゃなくてテレビも結構楽しかった時代なんですよ。ドリフターズもあったし、「奥様は魔女」とかアメリカのホームドラマもやっていたし。

------ ペン大王
そのマンガの動きが頭にインプットされているっていう感じなんですか。

------ 伊藤
そうですね。これはディズニーみたいにふわっとパントマイムみたいな「さあ、行こう!」っていう演技よりは、「チキチキマシーン」みたいに「行くんだよ!」みたいスピーディな動きで、ていう感じで、引き出しがたぶんいっぱいあると思うんです。とにかくステージにあがった瞬間に自分の中から出てくるものがあるかどうかで、テレビ観ててよかったと。

------ ペン大王
じゃあ、やっぱり子供の時につちかったものが、今に活かされてるんですね。

------ 伊藤
ぼくも学生の時のまで入れたら、何十冊かスケッチブックがあったりして、その何もなくても描いていたころのものって、本当に財産だと思うんです。たまたまぼくは動くものと光るものが好きだったんですけど、ある人は一枚の絵を描き上げるとか、ある人はキャラクターを魅力的に立体とか絵でつくり上げるというのが好きだったりとか、そういうことだとは思うんですが、キャラクターを作るってことは、ぼくのやっていることと限りなく共通 はしていると思いますね。

ビデオパッケージ素材用
「ニャッキ!」
このせまーいスペースで
ニャッキは作られるのだ
粘土の微妙な色合いを
みるため電気は
つねに蛍光灯
------ ペン大王
伊藤さんがキャラクターに命を吹き込む時点で、一番気をつけているようなところってなんですか?

------ 伊藤
ぼくの場合は、キャラクターに対して誠実でありたいと思っているんです。ちょっとかたいことを言っちゃうと、ワルならワルらしく見えるということ。名前とかはすごくどうでもよくて、ニャッキの場合はニャッキっていう主人公以外は名前はたいしてつけてなかったんです。ピンク色のが出てくるから、じゃあピンクだとか、悪そうなのが出てきたんで、じゃあワルだとか、そのぐらいで。ともかく直球主義なんですね。だからワルだったらワルらしく……。

------ ペン大王
それって動きをワルらしくってことですか?

------ 伊藤
そうですね、性格設定からすべてをね。実は基本がしっかりあると、それをくずすことで、ギャグとかが立ってくるんですよ。たとえば悪いやつが悪くて強いはずなのに、頭が悪いからマカロニなんかに頭を突っ込んで暴れたりして。本人はすごく必死なんだけど、端から見るとバカだこいつ、みたいな。

------ ペン大王
アハハ。確かに、わかりやすいですねぇ。

------ 伊藤
あまりフワフワしてどうとでも取れちゃうようなキャラクターにしちゃうと、ひねりようがなくなっちゃうんです。だからかわいいのだったらかわいくとか、まずは直球部分でどれだけちゃんと力があるかっていうことがぼくの中ではいつでもテーマです。

------ ペン大王
なぁるほど。ためになるお話をいっぱいありがとうございました!


どんなものにでも命を宿らすことができるアニメーションディレクター伊藤有壱さん。ロドニーのキャラクターを愛しちゃったあまりに、ロドニーのキャラが主人公のアニメーションを作ってプレゼントしちゃったという有名な話も。そんな伊藤さんが動かしてみたいと思えるようなキャラクター、作れるようになりたいっすねぇ。いやー、ペン大王ももっとがんばるぞー。

新作「The Box」の
舞台セットとともに
今月のキャラメーキングの極意
動きが想像できるようなキャラクターを作ってみよう。
性格付けや動きは直球勝負で。基本ができてると肉付けがさえてくる。

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