第六回「どんな物語でも、それが正解」の巻

一般すぎるほどの一般人、人間最大公約数ことハギワラノリツグが一流のキャラクターデザイナーになるために、一年間という長い期間に渡って拘束される、ある意味サディスティックな、そしてどっかで聞いたことあるような企画です。
手元にあるのは「手塚治虫のマンガの描き方」という本、一冊のみ。
本を頼りに、手塚治虫に追いつけ追いこせ。
第二の手塚治虫を目指して、半分無理だと悟りながらもガンバります。
だからみんなもただ見てないで、ガンバレっつーの!

サイ王 登場

ユキダルマッチョはユキダルメシアンの背中に乗り、今アフリカのサバンナを横断している。雪の降らないアフリカの子供たちに雪を見せるためだ。うだるような暑さ。ユキダルマッチョに乗られたユキダルメシアンはさらにうだってダラダラ。もう「ダルい」としか口に出さなくなっている。
旅を初めて約2週間。陽炎が立ち上る向こう側にオアシスが見えてきた。目的の集落だ。オアシスに近づいていくと一人の子供がこちらに気づいた。その子供が何かを叫ぶと、今まで外に出ていた子供たちが一人残らず家の中に入っていってしまった。一人残され戸惑うユキダルマッチョ。一体何事があったというのか。
と、その時。ユキダルマッチョの頭に石つぶてが飛んできた。そちらの方を振り返ると一人の子供が。
「オマエもサイ王の仲間だろ! この村から出ていけ!」
その子供の顔を見ると傷だらけだ。サイ王? 何がなんだか訳のわからないユキダルマッチョ。とにかく何か誤解されているようだ。大声を出して、自分は怪しい者ではない、っつーか、どちらかというと正義の味方なのだ、と訴える。しかし、その声に呼応して家々から子供たちが飛び出してきた。「何が正義だ、このウスラトンカチ」の声と共に無数の石つぶての雨がユキダルマッチョに降り注ぐ。痛ててててて。このクソガキども。とにかく何がどうなってんのか説明しろや、コラ。
突然、石つぶてが止む。子供たちの顔が青ざめていく。なんだ、オレの言うことを聞く気になったのか。やっぱり言うことを聞かないガキどもは一喝するに限るね。と、突然、ユキダルメシアンもろとも吹き飛ばされるユキダルマッチョ。その距離、軽く30m。




土煙の向こうに現れたのは柔道着を着たサイ。
サイ?
しかも二本足で立ってるよ、コイツ。
子供たちは悲鳴を上げながら、また家々に隠れる。ついでにユキダルメシアンも無理矢理一人の子供の家に潜り込む。逃げんなや、コラ。 ユキダルマッチョとサイが対峙する。
「オマエは何者だ!?」
「ワタシの名は『サイ王』。二重人格者だ」
二重人格、って・・・。そんな自己紹介はねぇだろう。しかも正確には『者』じゃなくて『サイ』だし。
「二重人格だと?」
「そう。二本足で立っているときは柔道家。四本足で走るときはサイなのだ」
それって人格? とにかく、コイツが子供たちを傷つけていることにはかわりなさそうだ。
「子供たちを角で突いて遊ぶのも飽きたからな。今度はオマエをオモチャ代わりにして遊んでやることにしよう」
「これ以上子供たちを傷つけることは許さない! それ以上にオレを傷つけることは許さないぞ」
「オマエ、ホント自己中な・・・」
「サイだけに『うるサイ』!」
「あ。サムイ」
サイ王は四本足で突進してくる。ユキダルマッチョはヒラリと身をかわす。確かに四本足の時はただのサイと変わりがない。直線的に突進してくるだけだ。引き続きサイ王の攻撃。ユキダルマッチョが余裕の動きでかわそうとした、その時。ユキダルマッチョの真ん前でいきなり二本足で立ち止まるサイ王。ユキダルマッチョを掴むとキレのいい一本背負い。ユキダルマッチョが地面に叩きつけられる。サイのダッシュ力とキレのいい柔道技。コイツはなかなかの強敵だ。必殺技を出さないと負けるかもしれない。
ゆっくりと立ち上がると正面に両手を伸ばすユキダルマッチョ。
「何をする気か知らないが、ワタシには効かない。何故なら、ワタシは酸性雨などによる自然破壊、おまけに原発の放射能などによって突然変異したサイだからだ。並大抵の衝撃は既に受けているのだ。人間など滅ぼしてやる。それがたとえ子供であったとしてもな」
ユキダルマッチョが正面に伸ばした手を、ゆっくりと動かし始める。 「人間なんか大嫌いだ! ついでにオマエも大嫌いだ!」
突進してくるサイ王。ユキダルマッチョの手の軌跡が四角いスクリーンを作り出す。
「オーロラ・ビジョン!!!」
空中に作り出されたスクリーンから光が漏れる。その光の中に映像が映し出される。それは草原で草を食べるサイの親子。サイ王が愕然とする。
「か、母さん・・・」
だとしたら子供のサイはサイ王の幼い時か。画面の中の母サイが子サイに言う。
「私たちの住むこの草原も、近い将来なくなるわ。人間が生み出した自然破壊によってね。草原だけじゃないわ。私の命も長くはない。でもね。人間に復讐しようとか、そういうことは思わないで。自分たちが生み出した自然破壊が、いつの日か人間自体を襲う。人間は人間に滅ぼされるのよ。そんなくだらない種族に関わっている時間はないの。サイはサイらしく、自分の人生を全うすることを考えてちょうだい。エンジョイ・サイ・ライフ、よ」
サイ・ライフってなんだ? とにかくこの言葉がサイ王には効いたらしい。
「お・・・お母ぢゃ〜ん!!!」
そう叫ぶとサイ王が身に纏っていた柔道着が消え、言葉を発しなくなった。普通のサイに戻ったサイ王はゆっくりとサバンナの地平線に消えていった。
サイ王の消えていった方角へユキダルマッチョは呟く。
「エンジョイ・サイ・ライフ・・・」
サイ王から解放された子供たちが家々から出てくる。ユキダルメシアンも出てくる。ホント、この犬、役立たずだな。笑顔を湛えた子供たちに向けてユキダルマッチョは両手を空に向かって突き出す。
「オーロラ・ビジョン」
オーロラ・ビジョンが放つ光が空に向かって伸びていき、光の消えゆく先から何かが降ってきた。
雪だ。
煌々と照りつける太陽、炎天下のサバンナに降り注ぐ雪はキラキラと光ってとてもキレイだった。子供たちは、初めて見る雪に驚きと戸惑いを隠せない様子だったが、すぐに地面に降り積もった雪の上で遊び始めた。子供たちの笑顔は降り注ぐ真っ白な雪に負けないくらい光り輝いていた。
ユキダルマッチョは無言で去る。あの雪は一週間かそこらは消えない。子供たちの人生の中の貴重な一週間。それを演出できたことを嬉しく思うユキダルマッチョだった。