INFERNO編集室を覗けたことでチラっと見えたハイエンド編集システムの実態。やはり僕らが日頃WinやMacベースでやっている映像制作とは機能的にも感覚的にも大きな違いがあるようだ。作業スピードとディスク容量が圧倒的に違うって話しだけどコトバだけじゃ今ひとつピンとこないってもんです。100万で組めるPC編集と1億のハイエンドシステムにはやはり100倍ぐらいの違いがあるのか?

アサヒ飲料株式会社
麦茶「麦水」のCM
合成前の曇り空
合成後の青空
ペットボトル切抜き前〜後
波の左部分のキラキラ
で清涼感アップ
ほとんどのものが合成
ポイントを選択し
トラッキングさせる
MISSION #02 TVCM
INFERNO無しでは語れないCM編集の現場


 脳みそよりも体で覚えたがるハイエンドのぞきみ隊。実作品の編集現場を覗こうとしたがあっさりと作戦は失敗に終わる。やはり時間との戦いでもあるプロの現場にシロウトが立ち会うのはなかなか難しいようだ。あきらめかけた時に「事件は現場で起きてるんだ!」という織田裕二の言葉を思い出し、時間差攻撃を決意。編集スタジオMcRAYに再び事情を話したら、オンエアされたばかりの作品の現場なら覗いてもいいことに。現場の空気にドキドキするのぞきみ隊を迎えてくれたのはなんと前回もお世話になったエディターの佐藤友哉氏。早速、CMをモニターに流して頂いた。


INFERNOで抜き放題 (デーブ編)

―― デーブ編ではどういう部分がINFERNOの作業だったんですか?

佐藤 そんな劇的なものはそれほどやってはいないんですけど、青空は合成しました。

―― これはブルーバックで撮ってるんですか?

佐藤 いや、撮影の時ちょうど曇っちゃって、真っ白だったんです。やはりここは青空が欲しいということで合成しました。

―― 自然まで変えてしまうんですね(笑)。

佐藤 元素材は白い空が一面に広がっているんです。

―― じゃ、青空も雲もINFERNOで?

佐藤 そうです。

―― こういった場合、雲をつくるのっていうのは?

佐藤 雲は基本的にポジの写真を何枚か撮ってきていただいて、それを素材にしてカメラに合わせて動かします。

―― デーブさんにかかっている光とか影はもともとあったものですか?

佐藤 そうですね。だからデーブさんの体をマスクで切ってから空をいじりました。こういうところはブルーバックで撮ってるわけではないので、コマで描いていくんです。

―― 全部ひとコマひとコマ?つまり1枚1枚パスを描いていくんですか?

佐藤 はい、そうです。

―― AfterEffectsでも色の抜きは出来ますがやはりINFERNOの方がキレイに出来るんすかね?

佐藤 キーやマスク機能は充実していると思うんですけど、ちょっと実際にやってみましょうか?

―― おー、面白いように抜けますね!ワンタッチでここまで精度が高いなんて羨ましいですよ!

佐藤 で、今こういうところも抜けちゃっているんで、そういうところをパスで埋めていく感じですね。このパス自体はやっぱり一枚ずつ根性でやっていくわけです。サポートしてくれるいろいろな機能がもちろんあるんですけど、基本的にはやっぱり手でイラストレーターのようにやっていくわけです。

―― お茶の間でCMを観る見る人は、こういう地道な根性作業を知らないわけじゃないですか。ちょっと教えてやりたいですよね(笑)。

佐藤 青空って、本来あまり合成しなくても撮れるような絵じゃないですか。だから余計に気づかないですよね(笑)。

―― ちなみにこのデーブ編だけでどのぐらい時間がかかりましたか?1時間とか3時間とか?

佐藤 いや、これに関しては、3カットのマスク切りだけでほぼまる一日、っていうか次の日の朝ぐらいになっちゃいました。

―― 生々しいですね、次の日の朝っていうのは。それはやっぱ言ってかないと(笑)。


いい波だしますINFERNO (小向編)

佐藤 小向編はサイパンにロケに行かれてて、HD撮影ですごいディテールとかは撮れているんですけど色が浅かったんで、いろんな色をいじっていこうっていう話しになったんです。まずこれだと空と本人を切り分けています。波も光ってなかったのでキラキラを足してました。波と太陽の角度によってキラキラが見えたり見えなかったりするんで、見えているテイクの波の部分だけを移植しました。

―― それはある意味CMの監督が最終的にはキラキラを入れたいと思っていたからこそ、サイパンで人物なしのキラキラを同じのアングルの固定カメラで撮ったわけですか?

佐藤 あ、全部が人物アリなんですけど20テイクぐらいは撮ってあったので小向さんが飲んでるベストテイクと波のベストテイクをくっつけたって感じですね。

―― 撮影のときに監督がどこまでポストプロダクションを考えて撮影しているのか、っていつも気になるんですけど一般的にはどうなんですか?監督によって全然違うとは思うんですけど、今回は?

佐藤 そこのところは結構どっこいどっこいだと思うんですけど、ある程度前もってビジョンをつくられる監督はいろんな素材を撮っていらっしゃいますし、編集の段階でこちらからお伺いするケースもあります。合成の仕方についての事前打ち合わせをする場合もありますが、編集室に入ったときに新しい発見というか新しい提案みたいなものを出されたら、エディターとしてはそれにできるだけ対応していきたいという気持ちがありますね。今回はいい波の素材があったので、それ使いたかったんだと思います。

―― これもやはり空を少し明るくいじってるんですか?

佐藤 はい。空はすごく浅いというか、薄い色だったので、深いところは締めて明るいところは上げて、コントラストの差をつけています。

―― これも一枚一枚作業するんですか。髪の毛があるじゃないですか!?出来ないことはないんでしょうかど根気がいるので僕はAfterEffectsで髪の毛とかはやりたがらないんですけど、、、

佐藤 そうですね。最終的には1枚1枚補正するような地味な手作業は必要ですがある程度のところまでINFERNOのトラッキング機能が動画でマスクを拾ってくれるんです。こういう機能なんですど。

―― なるほど、ポイントを追っかけてくれるんですね。これだけでも精度がかなり高いって感じはしますね。しかもこのスピードなら複雑な合成もドンドンやってみたくなりますね。

佐藤 髪の毛に関しては、手で描くよりもなめらかです。これがブルーバック撮影だともっときれいに切れます。


合成のオンパレードにも動じないINFERNO (勝俣編)

佐藤 勝俣編はコンビニエンスストアがセットで、ブルーバックシートを敷いていただいて、カメラの動きに合わせて空を入れました。それでレンズフレアをちょっと派手めにということだったんでこうなりました。

―― たしかに光がくっきりしていますね。

佐藤 絵みたいになっちゃっているんです。あと、うしろのコンビニエンスストアをなじませるために、またここを抜いて。

―― 抜き放題ですごいですね(笑)。でも髪の毛の間もちゃんと入っていますね。

佐藤 ただ、思いっきり別のものを乗せるというわけではないので、まったくの合成よりも緻密でないといったらあれですけど、雰囲気っていうか、色を変えるだけなんで、何日もかかるような作業ではないです。

―― それにしても全部合成ですよね(笑)。

佐藤 いや、道路と勝俣さんはブルーバックで撮っていただいて、道路とコンビ二と壁と屋根と後ろの民家と池と山とセミと空が合成です。セミだけはポジです。あと、足元は蜃気楼を揺らして欲しいという話しがあったんで。

―― 全部じゃないですか!!

佐藤 そうですね。あと作品全体を通じてちょっと不思議なカメラワークにするために、勝俣さんはブルーバックでコンビ二も別撮りしています。カメラの動きをずらしておもしろい効果をねらっています。

―― 勝俣さんアップの早回しもINFERNOで?

佐藤 基本的に早回しはAVIDで行う仮編集のEDLデータを持ち込めばそのデータを活かしてINFERNOが勝手に早回しにしてくれますが、INFERNOにも編集機能はあるので最終的な微調整はINFERNOでやることが多いです。

―― なるほど。合成が得意なのでついつい忘れがちだけどINFERNOでもカット編集が出来るんでしたね。


時間10倍にクオリティー10倍で100倍

―― この3つのCMで一番大変だったのは?

佐藤 意外とデーブ編だっりして(笑)。これも時間かかりましたからね。

―― 突っ込んだ話しをお聞きしたいのですが、例えばこの3編のCMに行った処理はAfterEffectsを積んだそこそこハイスペックのPCでもやれるんですか?

佐藤 理屈ではやってみればできることだとは思います。ただ、現実的にはかなり不可能に近いと思います。なぜなら実際にカメラの動きを追いかけたりするのってやってみるとかなり難しいものなんです。

―― カメラの動きを追っかけてマスクを作るっていうことですか。

佐藤 今のところAfterEffectsにはまだトラッキング機能がついてないのでたとえばマスクを構成する一つ一つのポイントを個別に追っかけられないわけですよね。

―― トラッキング機能を使えたらあとはコマごとのズレを少し補正するだけでもいいということですよね。あとはやはりレンダリング時間の問題でしょうか?INFERNOはリアルタイムレンダリングでしたっけ?

佐藤 厳密に言うと常にリアルタイムではないんですけどね、やっぱりエフェクトや合成レイヤーが増えれば増えるほど重くはなっていきますから。例えばつい最近、10秒のクリップでレンダリング24時間というのもありました。

―― でもそれって通常はあまりやらないような複雑な合成とかエフェクトをたくさん使った場合ですよね。

佐藤 そうですね、滅多にないですね。INFERNOはCPU8個がみんなで働いてますから基本的には人を待たせるようなことは少ないですね。でないと仕事にならないです。

―― 先ほどデーブ編のマスクだけで一日近くかかったと言いましたよね。仮に超気合が入った人がいて根性でAfterEffectsを使って同じことをやろうとしたら、何倍ぐらいの時間がかかると思いますか?

佐藤 そうだな……。ぼくだったら辞退します(笑)。

―― その辞退したくなるような時間をちょっと数字にしてみると?

佐藤 一週間以上はかかるかな。10倍の時間でやった結果、キレイにできるかどうかはわからない。

―― INFERNOを使った方が確実に仕上がりが想像つくという感じですか。

佐藤 そうですね。CMはオンエア日が決まってますからね。




CM編集には欠かせない存在。僕らにとっては夢のようなパフォーマンスを実現するINFERNOだが、それだけではないような気がする。エディターのセンスとノウハウ、そして一見地味だが職人的な作業の積み重ねが作品の魅力を120%引き出しているのでは。
CM制作の現場でプロの厳しさを体で感じたハイエンドのぞきみ隊でした。(ちょっとだけね)